美咲美は盃を傾け、静かに微笑んだ。
「ふぅん…やっぱり、あなたと飲むの、悪くないわね。」
「…飲みすぎるな。」
悠慎は彼女の盃に視線を向けながら、ゆっくりと酒を口に含む。米の甘さが広がる落ち着いた味。しかし、それ以上に、今夜の空気が妙に落ち着かないものに感じられた。
いつものように淡々と料理を作るだけの日々。客として現れる美咲美。
それだけのはずだったのに、彼女が店にいる時間が、当たり前になりつつあった。
「ねえ、悠慎。」
美咲美がカウンターに肘をつき、じっと彼を見つめる。
「…なんだ。」
「あなたって、私のこと、どう思ってるの?」
唐突な問いに、悠慎は手を止めた。
「…なんの話だ。」
「なんでもない。ただの興味よ。」
美咲美は少しだけ笑いながら盃を回す。
「私はね、計算して人と接するのが当たり前だったの。でも、あなたといると、それができないのよ。」
「…そうか。」
悠慎はそれ以上何も言わず、視線を落とした。
彼女は、彼を試しているのか。それとも、本心なのか。
「でも、嫌いじゃないわ。こんな風に、何も考えずにいられる時間って。」
悠慎は短く息をつき、盃を置いた。
「…なら、それでいい。」
「ふふ、そうね。」
美咲美は嬉しそうに微笑み、酒を飲み干した。