一方、美咲美もまた、自分の中に芽生えた感情を整理しきれずにいた。
「悠慎って、本当に不器用よね。」
帰り道、傘をくるくると回しながら、小さく呟く。
彼は多くを語らない。感情を表に出すこともない。しかし、料理の味や手の動きには、彼の心が如実に表れていた。
今日は、少しだけ迷いがあった。
ほんの僅かな違い。それを感じ取れるほどには、彼の料理を知るようになっていた。
（こんな風に、誰かのことを気にするなんて、久しぶりね。）
美咲美はふと、遠い昔を思い出した。
昔は、もっと計算で人と接していた。誰と話すべきか、どう振る舞うべきか、すべてを考えて行動していた。
でも――悠慎には、それが通用しない。
「…面白い人。」
彼と話すたび、彼の料理を食べるたび、計算のない時間が心地よくなっていく。
それが、自分にとって何を意味するのか。
美咲美は、まだ答えを出せずにいた。