あたしが、あんたを拾ってあげる。



———当時。


涼宮 由佳(すずみや ゆか)
池田 颯太(いけだ そうた)

幸せな恋愛をしていたはずだった。

彼女の前で、お酒を飲む頻度が増えた。

一緒に飲むこともあった。

それでもお酒の飲みすぎには気を付けていた。

とある日。

お酒の飲みすぎで、気が大きくなった状態で喧嘩をした。

喧嘩の理由は大したことなかった。

洗い物したら、ちゃんと拭けよ。

そんな一言を言い放って、大したことじゃないはずなのに、彼女は泣きながらこう言った。

「体調悪いことにも気付かないで、お酒ばっかり、颯太っ……私のこと何とも思ってないの……!?」

「体調悪いんだったら、由佳が俺に言えよ。言わないとわかんないだろ」

手が出そうになった自分に驚くのは間違いなく、彼女は怯えていた。

「ごめんね。ごめん。ごめんなさい……」

ひたすら俺に謝った。

お酒を飲んだ時毎回こんなことしてたら、彼女を不幸にさせると思った。

もっといい人がいる。

俺なんかじゃなくて、優しい人と幸せになってほしい。

そう思って別れを告げた。

「ごめん、もう付き合えない。別れよ」

「なんで?私が弱いから?私が泣くから嫌になったの?なんで、私には颯太しかいないよ、颯太がいいよ」

「ごめん」

見ていられなかった。

これで泣かせるのも最後。

そう決めて、彼女の家を出た。

それからの日々は、彼女を埋めるための寂しさからか、いろんな女を抱くようになった。

いつの間にか、くずになっていくのが心地よくなった。
自傷行為に近かったと思う。

由佳が忘れられなくて、どんな女も違うと思った。

一緒にいた日々は、まぎれもなく幸せなはずだった。

俺がお酒とたばこをやめた理由。

————

「なんだ、私のこと覚えてたんだ。由佳だよ私」

先ほどまで強気で話していたユウカは、変な冗談をしてきた。

「やめろよ、またなりきってんのか?」

ちょっと似てたからって沈まれ、俺の動悸。

「違うよ、私が演劇やってたの忘れちゃった?」

バクバクと脈を打つ鼓動に、頭がくらくらした。

「ほんとに由佳なのか?」

「早く打ち明けたかった、流れてくる友達からの情報やsns、見てられなかったから。
わたしね、強くなりたくて沢山演劇の勉強したんだ」


「どうだった?ユウカは、別人みたいだった?メイクも覚えたんだよ。颯太、全然気づかないんだもん」

「何でそこまで、俺のためにか?」

「だって、颯太が好きだから、私には颯太しかいないってあの日も言ったでしょ」

由佳の目からぽろぽろと落ちる涙を、俺はそっと手で拭った。

涙の一滴でさえ愛おしかった。

「ねえ、今の私たちなら、大丈夫だよきっと、やり直そうよ」

「一度手をあげそうになった俺には、もうそんな資格ないんだ」

「私が一緒にいて支えたいの、もう見てられないよ。そんな追い込む姿見てられないよ」

「ほかにいいやついっぱいいるぞ」

「颯太がいい」

そう言って、由佳は、俺を抱きしめた。

「もう離したくない、キスしよ?」

そう言って、顔を近づけて3センチの位置でとめた。

「ねえ、しよっ?」

微笑みながら、首の後ろに手をまわしてそのまま、引っ張られるようにおいかぶさった。

甘えた声も、漏れた息でさえも、髪の一本一本まで愛おしかった。

「愛してるっ……颯太」

「俺も愛してる」

もう会えないと思っていた。

こんなことあるんだって。