一週間、大和は蓮との距離をどう詰めればいいのか考え続けていた。
翌週の放課後。バスケ部の練習が終わり、大和は部室で制服に着替えていた。肩に軽い痛みを感じる。昨日の練習試合での接触プレーの影響だ。
(最近、あいつ見かけないな...まあ、来ないか... 美術室に籠ってるのかな...)
そんな事を考えながら、携帯を開く。既読をつけたまま返信できないでいる、夜の十時のメッセージ。最初は即座に消していたのに、今は消せなくなっていた。
「よお、大和」
村上が部室に入って来る。いつもの軽い調子だが, 何か言いたそうな様子が見て取れた。
「どうした?」
「お前さ、最近元気ないぞ。あのイケメンの後輩くんと何かあったのか?」
その言葉に、大和の手が止まる。
「...別に」
「隠しても無駄だぞ。美術室で見かけたんだ、あいつのこと」
村上の声が真剣味を帯びる。
「お前が怪我した時の絵を描いてた。でもその横で、自分が介抱している場面も描いてた。『こうだったら良かったのに』って呟きながら」
(あいつ...)
胸が締め付けられる。蓮がどれほど自分のことを想い続けているのか、その重みが突き刺さる。
「なんか、それが切なくて…俺まで切なくなった…
お前ら、何かあったんだろう?もしかして、告白でもされた?」
図星を突かれて大和はうっ…と言葉を詰まらせる。
「えっ、マジで?付き合うの?もし、お前が男が好きでも俺は気にしないよ。ずっと友達でいるからな!」
「...わからないよ。俺も、蓮のことどう思ってるのか...」
村上は笑みを浮かべながら大和の肩に手を置いた。
「お前も、あいつのこと好きなんじゃないのか?違うなら、こんなに悩まないだろ?今までの告白なんて即答で断ってたのにw」
大和は窓の外を見つめる。夕陽が部室の中に差し込み、二人の影を長く伸ばしていた。
「...毎日、十時に...メッセージが来るんだ」
「へぇ...マメだな、あいつ」
村上は意外そうな顔をする。
「返信してない...でも、読んでるw、全部...」
「読んでるんだ?全部w、それって、もう答えは出てるってことじゃね?」
大和は深いため息をつく。
「でも、この想いを受け入れたら...」
「二度と逃げられなくなる?」
村上が言葉を継ぐ。
「それが、恋ってもんだろ?」
「蓮は...不器用なんだ」
大和は静かに言う。
「計算ずくで近づいてきたのに、気づいたら自分の感情に振り回されてる」
「お前も似たようなもんじゃないか?」
村上が笑う。
「計算ずくで距離を置いてるのに、気づけば毎晩メッセージ待ってるんだろ?」
その言葉に、大和は答えることができなかった。
「蓮のことが...本当は、ずっと気になってたんだ。でも、蓮の気持ちが本物なのか、それとも単なるゲームなのか分からない」
村上は真剣な表情になり、大和の目を見つめた。
「ゲームなわけないだろ。あの、お前の絵本当に凄かったんだぞ⁉︎あんな絵描くの普通じゃないと思うんだけど!好きじゃないと描けないって!」
大和は大きく息を吐き、窓の外に広がる空を見上げた。夕焼けは深みを増し、幻想的な黄昏時を迎え、大和の心も黄昏色に染められた気がした。
「...最初から計算してたんだぜ?俺との出会いも」
大和は低い声で言う。
「全部待ち伏せしてたみたいだし、体育館裏で助けたのも全部...」
「それがどうした?それだけ好きだって事じゃないの?
そんな作戦考えてるのかわいいだろw」
村上の言葉に、大和は顔を上げる。
「計算であっても、その中で生まれた気持ちは本物かもしれないだろ」
「蓮は...俺のことを」
大和は探すように間を置く。
「狂おしいほど愛してるって言うんだ」
夕陽が沈みかけ、部室の中が紫色に染まっていく。その光の中で、大和は初めて自分の本当の気持ちと向き合おうとしていた。
大和は村上に感謝の笑みを返し、再び部室の静けさに身をゆだねる。その時、外から部活の声やボールの跳ねる音が、彼の心を少しずつ未来へと押し進めていく。蓮との関係を、自分自身の気持ちを、もう一度見つめ直す時間が来ていた。
その夜、大和は窓際に座り、月を見上げて物思いにふける。携帯を開くと、今夜も蓮からのメッセージが届く。
『先輩、今日も先輩の新しい表情を見つけました。
でも、今日は描けませんでした。
先輩の痛そうな表情を、僕の絵の中だけでも、消してあげたかったから。』
続くメッセージ。
『僕は、先輩の全てが欲しいわけじゃありません。
ただ、先輩の傍にいて、守りたいだけなんです。
それは、異常でしょうか?』
画面が滲む。それは涙のせいだと気づくまでに、少し時間がかかった。
(守りたい、か)
大和は初めて、この想いに名前をつけようとしていた。
翌週の放課後。バスケ部の練習が終わり、大和は部室で制服に着替えていた。肩に軽い痛みを感じる。昨日の練習試合での接触プレーの影響だ。
(最近、あいつ見かけないな...まあ、来ないか... 美術室に籠ってるのかな...)
そんな事を考えながら、携帯を開く。既読をつけたまま返信できないでいる、夜の十時のメッセージ。最初は即座に消していたのに、今は消せなくなっていた。
「よお、大和」
村上が部室に入って来る。いつもの軽い調子だが, 何か言いたそうな様子が見て取れた。
「どうした?」
「お前さ、最近元気ないぞ。あのイケメンの後輩くんと何かあったのか?」
その言葉に、大和の手が止まる。
「...別に」
「隠しても無駄だぞ。美術室で見かけたんだ、あいつのこと」
村上の声が真剣味を帯びる。
「お前が怪我した時の絵を描いてた。でもその横で、自分が介抱している場面も描いてた。『こうだったら良かったのに』って呟きながら」
(あいつ...)
胸が締め付けられる。蓮がどれほど自分のことを想い続けているのか、その重みが突き刺さる。
「なんか、それが切なくて…俺まで切なくなった…
お前ら、何かあったんだろう?もしかして、告白でもされた?」
図星を突かれて大和はうっ…と言葉を詰まらせる。
「えっ、マジで?付き合うの?もし、お前が男が好きでも俺は気にしないよ。ずっと友達でいるからな!」
「...わからないよ。俺も、蓮のことどう思ってるのか...」
村上は笑みを浮かべながら大和の肩に手を置いた。
「お前も、あいつのこと好きなんじゃないのか?違うなら、こんなに悩まないだろ?今までの告白なんて即答で断ってたのにw」
大和は窓の外を見つめる。夕陽が部室の中に差し込み、二人の影を長く伸ばしていた。
「...毎日、十時に...メッセージが来るんだ」
「へぇ...マメだな、あいつ」
村上は意外そうな顔をする。
「返信してない...でも、読んでるw、全部...」
「読んでるんだ?全部w、それって、もう答えは出てるってことじゃね?」
大和は深いため息をつく。
「でも、この想いを受け入れたら...」
「二度と逃げられなくなる?」
村上が言葉を継ぐ。
「それが、恋ってもんだろ?」
「蓮は...不器用なんだ」
大和は静かに言う。
「計算ずくで近づいてきたのに、気づいたら自分の感情に振り回されてる」
「お前も似たようなもんじゃないか?」
村上が笑う。
「計算ずくで距離を置いてるのに、気づけば毎晩メッセージ待ってるんだろ?」
その言葉に、大和は答えることができなかった。
「蓮のことが...本当は、ずっと気になってたんだ。でも、蓮の気持ちが本物なのか、それとも単なるゲームなのか分からない」
村上は真剣な表情になり、大和の目を見つめた。
「ゲームなわけないだろ。あの、お前の絵本当に凄かったんだぞ⁉︎あんな絵描くの普通じゃないと思うんだけど!好きじゃないと描けないって!」
大和は大きく息を吐き、窓の外に広がる空を見上げた。夕焼けは深みを増し、幻想的な黄昏時を迎え、大和の心も黄昏色に染められた気がした。
「...最初から計算してたんだぜ?俺との出会いも」
大和は低い声で言う。
「全部待ち伏せしてたみたいだし、体育館裏で助けたのも全部...」
「それがどうした?それだけ好きだって事じゃないの?
そんな作戦考えてるのかわいいだろw」
村上の言葉に、大和は顔を上げる。
「計算であっても、その中で生まれた気持ちは本物かもしれないだろ」
「蓮は...俺のことを」
大和は探すように間を置く。
「狂おしいほど愛してるって言うんだ」
夕陽が沈みかけ、部室の中が紫色に染まっていく。その光の中で、大和は初めて自分の本当の気持ちと向き合おうとしていた。
大和は村上に感謝の笑みを返し、再び部室の静けさに身をゆだねる。その時、外から部活の声やボールの跳ねる音が、彼の心を少しずつ未来へと押し進めていく。蓮との関係を、自分自身の気持ちを、もう一度見つめ直す時間が来ていた。
その夜、大和は窓際に座り、月を見上げて物思いにふける。携帯を開くと、今夜も蓮からのメッセージが届く。
『先輩、今日も先輩の新しい表情を見つけました。
でも、今日は描けませんでした。
先輩の痛そうな表情を、僕の絵の中だけでも、消してあげたかったから。』
続くメッセージ。
『僕は、先輩の全てが欲しいわけじゃありません。
ただ、先輩の傍にいて、守りたいだけなんです。
それは、異常でしょうか?』
画面が滲む。それは涙のせいだと気づくまでに、少し時間がかかった。
(守りたい、か)
大和は初めて、この想いに名前をつけようとしていた。



