霧が立ち込める早朝、幹太と琴乃は地図を片手に、記された場所へ向かって歩いていた。夜が明けたばかりの空は、淡いオレンジと深い紫が入り混じり、幻想的な光景を描き出していた。
「なんだか、これだけで冒険って感じだな。」
幹太が地図を見つめながら軽口を叩く。
「気軽に言うけど、本当にこれで何か見つかると思ってる？」
琴乃は少し呆れたように返すが、その声にはどこか期待が混じっていた。
地図の線は、川の向こうにある小さな森を示していた。森に入ると、途端に空気が冷たくなり、霧が濃くなっていった。木々の間を進むうちに、二人の視界はほとんど奪われていた。
「これ以上進むのは危険じゃないか？」
幹太が足を止めて後ろを振り返る。しかし琴乃はそのまま進み、少し先で立ち止まった。
「幹太、これ……！」
琴乃が指差した先には、大きな石門が姿を現していた。

石門は灰色で古びており、苔がその表面を覆っている。高さは10メートルほどで、門の中央には複雑な紋様が彫り込まれていた。門の両脇には、左右対称の石像が立っている。それは、鋭い目をした獣と人間のような姿を併せ持つ不気味なものだった。
「これが……地図に書かれてた『門』？」
幹太が近づいて紋様を覗き込むと、微かな振動が足元に伝わった。
「触っちゃだめ！」
琴乃が慌てて叫ぶが、すでに幹太の指は門の表面に触れていた。
瞬間、門の紋様が輝き始め、霧が門の周囲を取り囲んだ。風が強まり、地面が震えだす。
「なんだこれ！？」
幹太が後ずさると、門の中央がゆっくりと開き始めた。その先には、暗闇と青白い光が交錯する異様な空間が広がっていた。
「入れってこと……？」
琴乃が呟く。彼女の声は震えていたが、その瞳には確固たる決意が宿っていた。
幹太は琴乃を見て頷くと、恐る恐る門の中へ足を踏み入れた。