川辺はいつもと同じだった。初秋の風が木々を揺らし、青空を映す川面が静かに流れる。幹太は釣り竿を片手に、川辺の石に腰を下ろしていた。横には琴乃が座り、手際よく餌を針に刺している。
「ねえ、幹太。少しはやる気出しなよ。」
琴乃が小さな溜息をつきながら声をかけた。
「やる気ならあるよ。ただ、川釣りってさ、のんびりやるのがいいんだよ。」
幹太は笑いながら竿を適当に振り、針を水中に落とした。水の中で小さな波紋が広がる。
琴乃は少し眉をひそめながらも、仕方ないといった様子で視線を戻した。彼女は真面目で几帳面だった。釣り竿を握るその姿も、まるで仕事の一環のようにきちんとしている。
しばらく無言の時間が続いた。川のせせらぎと遠くの蝉の声だけが聞こえる静かな午後だった。その時、琴乃の竿が大きく引かれた。
「えっ、何か掛かった!」
琴乃は驚きつつも、すぐに竿をしっかり握り締め、糸を巻き始めた。
「待てよ、本当に魚か?」
幹太が立ち上がり、琴乃の肩越しに川面を覗き込む。
「えっ……これ、魚じゃない……?」
針に引っかかっていたのは、濡れた紙切れだった。それは何かに包まれていたようで、糸を切ると黒ずんだ封筒が出てきた。
「なんだこれ……手紙?」
琴乃が封筒を広げると、中から古びた紙が出てきた。文字は滲んでいたが、まだ読むことができた。
「霧の中の秘宝を探せ。門神に導かれし者よ、暴力と平和の狭間で選ぶがいい。」
幹太と琴乃は顔を見合わせた。二人とも何かの悪戯だろうと思ったが、続きが気になって仕方がなかった。
「変な文章だな。でも、瑞道のことを思い出す。」
幹太がぽつりと言った。
琴乃は少し目を細めた。瑞道――数ヶ月前に突然失踪した彼の名前を思い出させるこの状況に、不思議な因縁を感じずにはいられなかった。
「まさか、これって瑞道が関係してるとか?」
幹太は答えず、川辺の水音に耳を傾けていた。風が吹き抜け、紙の表面がひらひらと揺れた。それは、ただの手紙ではないことを二人に告げているかのようだった。
その夜、二人は手紙に記された「霧の中の秘宝」と「門神」の意味を調べるため、ネットで検索を始めた。だが、出てくるのはただの作り話のような情報ばかりで、明確な答えは見つからない。
「これって本当にただのいたずらかもね。」
琴乃がそう言いながらも、手紙から目を離せないのは、どこかその言葉に確信を持てないからだ。
「でも、瑞道が消える前に言ってたよな。『秘密を守れ』って。」
幹太の声は真剣だった。その記憶は、今でも鮮明だった。
数ヶ月前、瑞道は行方をくらます直前に言葉を残していた。「秘密を守れ」とだけ。しかし、その意味を誰も理解できなかった。
「待って……瑞道の部屋に、地図みたいなものがあったんだ。」
幹太が急に思い出したように言った。
「地図?」
琴乃が驚いた顔で聞き返す。
「ああ、あの時はただの落書きだと思ってたけど。今考えると、これと関係あるかもしれない。」
二人は瑞道の家に行き、幹太が言っていた地図を探し出した。それは手描きで書かれた古い紙だった。見た目は雑だが、霧の中を示すような線が幾重にも描かれていた。
「これ、本当に瑞道が残したもの?」
琴乃が地図を見つめながら呟いた。
「たぶん。でも、俺たちには関係ないと思ってたんだよ。」
幹太は苦笑しながら言った。
その瞬間、窓の外で夜空が輝き、一筋の流れ星が空を横切った。刹那の輝きが部屋の中を照らし、二人の心に何かを訴えかけるようだった。
「行ってみるか。この地図が何を示してるのか。」
幹太は地図を握りしめ、意を決したように言った。
「えっ、本気で言ってるの?」
琴乃の驚いた声にも、幹太の瞳には確信が宿っていた。
「だって、瑞道がこれを残したんだ。何か大事なことがあるに決まってる。」
琴乃は少し考え込んだ後、小さく頷いた。
「……わかった。私も行く。」
星明かりに照らされる中、二人は地図を手に、新たな冒険への第一歩を踏み出した。それは、霧に包まれた異世界への入り口となる「時間を越える門」への旅の始まりだった。
「ねえ、幹太。少しはやる気出しなよ。」
琴乃が小さな溜息をつきながら声をかけた。
「やる気ならあるよ。ただ、川釣りってさ、のんびりやるのがいいんだよ。」
幹太は笑いながら竿を適当に振り、針を水中に落とした。水の中で小さな波紋が広がる。
琴乃は少し眉をひそめながらも、仕方ないといった様子で視線を戻した。彼女は真面目で几帳面だった。釣り竿を握るその姿も、まるで仕事の一環のようにきちんとしている。
しばらく無言の時間が続いた。川のせせらぎと遠くの蝉の声だけが聞こえる静かな午後だった。その時、琴乃の竿が大きく引かれた。
「えっ、何か掛かった!」
琴乃は驚きつつも、すぐに竿をしっかり握り締め、糸を巻き始めた。
「待てよ、本当に魚か?」
幹太が立ち上がり、琴乃の肩越しに川面を覗き込む。
「えっ……これ、魚じゃない……?」
針に引っかかっていたのは、濡れた紙切れだった。それは何かに包まれていたようで、糸を切ると黒ずんだ封筒が出てきた。
「なんだこれ……手紙?」
琴乃が封筒を広げると、中から古びた紙が出てきた。文字は滲んでいたが、まだ読むことができた。
「霧の中の秘宝を探せ。門神に導かれし者よ、暴力と平和の狭間で選ぶがいい。」
幹太と琴乃は顔を見合わせた。二人とも何かの悪戯だろうと思ったが、続きが気になって仕方がなかった。
「変な文章だな。でも、瑞道のことを思い出す。」
幹太がぽつりと言った。
琴乃は少し目を細めた。瑞道――数ヶ月前に突然失踪した彼の名前を思い出させるこの状況に、不思議な因縁を感じずにはいられなかった。
「まさか、これって瑞道が関係してるとか?」
幹太は答えず、川辺の水音に耳を傾けていた。風が吹き抜け、紙の表面がひらひらと揺れた。それは、ただの手紙ではないことを二人に告げているかのようだった。
その夜、二人は手紙に記された「霧の中の秘宝」と「門神」の意味を調べるため、ネットで検索を始めた。だが、出てくるのはただの作り話のような情報ばかりで、明確な答えは見つからない。
「これって本当にただのいたずらかもね。」
琴乃がそう言いながらも、手紙から目を離せないのは、どこかその言葉に確信を持てないからだ。
「でも、瑞道が消える前に言ってたよな。『秘密を守れ』って。」
幹太の声は真剣だった。その記憶は、今でも鮮明だった。
数ヶ月前、瑞道は行方をくらます直前に言葉を残していた。「秘密を守れ」とだけ。しかし、その意味を誰も理解できなかった。
「待って……瑞道の部屋に、地図みたいなものがあったんだ。」
幹太が急に思い出したように言った。
「地図?」
琴乃が驚いた顔で聞き返す。
「ああ、あの時はただの落書きだと思ってたけど。今考えると、これと関係あるかもしれない。」
二人は瑞道の家に行き、幹太が言っていた地図を探し出した。それは手描きで書かれた古い紙だった。見た目は雑だが、霧の中を示すような線が幾重にも描かれていた。
「これ、本当に瑞道が残したもの?」
琴乃が地図を見つめながら呟いた。
「たぶん。でも、俺たちには関係ないと思ってたんだよ。」
幹太は苦笑しながら言った。
その瞬間、窓の外で夜空が輝き、一筋の流れ星が空を横切った。刹那の輝きが部屋の中を照らし、二人の心に何かを訴えかけるようだった。
「行ってみるか。この地図が何を示してるのか。」
幹太は地図を握りしめ、意を決したように言った。
「えっ、本気で言ってるの?」
琴乃の驚いた声にも、幹太の瞳には確信が宿っていた。
「だって、瑞道がこれを残したんだ。何か大事なことがあるに決まってる。」
琴乃は少し考え込んだ後、小さく頷いた。
「……わかった。私も行く。」
星明かりに照らされる中、二人は地図を手に、新たな冒険への第一歩を踏み出した。それは、霧に包まれた異世界への入り口となる「時間を越える門」への旅の始まりだった。



