が、その数日後。

里は火攻めの襲撃に遭い、無惨に里の一族徒労まで悉く惨殺されたあげく里の全てが、焼き尽くされ滅亡した。

ただ、不思議なことに家茂そっくりの人形と村主の娘の残骸は布切れ1枚、骨1欠片も見付からなかったという。



「緻密で精巧過ぎる人形は、その出来映えの匠さゆえに凄まじい狂気と畏怖と欲を産み、大惨事を招いた」

父はそう言い、わたしを逃がして火の海の中でもがき苦しみながら亡くなった……。

藍の目に涙が滲んだ。


もし徳川家茂の一行が里を訪れたりしなければ、何も失わなかった。

まさか今更、家茂のからくり人形を操ることになるとは思わなかった。

藍の胸に沸々と言い知れない怒りが込み上げる。





満開の桜──。

あの日も桜がみごとに咲いていた。

川岸の桜並木が漆黒に映え薄紅色の花が、藍に忘れられない惨劇をまざまざと思い出させる。

風に舞う淡い桜の花弁が藍の黒髪に絡み付く。