「お父様!どうして私ではなくてあのお姉様が珀様の婚約者になったの?お父様だって私の方が相応しいと思っているでしょ?本当に理解できないわ!きっと何かの手違いよ!」
ティーカップを少しだけ荒々しく置く。はしたない行動に、使用人兼教育係が少しだけ目を伏せた。
「だが、珀様は何度も琴葉がいいと言ったのだ。間違っているはずがないだろう。」
「何よ、お父様も琴葉の味方をするの?」
「そういうわけではないが……。」
愛娘に責められてオロオロする一家の大黒柱。玄は鈴葉には弱いのだ。
「一応こちらでも探りを入れているんだ。何か裏があるのではないかと思ってね。」
「そうに違いないわ!何か策がない限りあんな女を娶ろうだなんて思わないもの!その必要がなくなれば、きっと珀様は私と婚約してくださるわ。」
実際、そもそもなぜ珀が琴葉の存在を知っているのかが、神楽家一同疑問で仕方がない。もちろん、宝条の力をもってして調べれば琴葉の情報はすぐに出てくるだろう。しかし、宝条珀は女など毛ほども興味がない人間だ。何の理由もなくわざわざ琴葉について調べるなんてことがあるだろうか。
「あのお方は『神楽の伝統』と言っていらしたわ。あなた、何か大切な情報が漏れているのではなくって?それに、これまでのあの子の待遇が世間に知られたら……。」
冴は珀が琴葉をもらいに来てから、気が気でないのだ。今までの自らの行動を振り返って、それが何らかの理由で宝条家の癇に障るようなことでもあればと思うと、安心して寝られない。
「神楽のことは神楽が一番知っているに決まっている。万が一、情報が漏れていたとしても、神楽の能力を使いこなせるものか。」
戦闘能力で言えば宝条家が圧倒的なのだが、神楽家と浅桜家はその能力の不思議さから、権力を保ってきたと言っていい。もちろん、戦闘向きの力も多く、魔形討伐界隈では重宝されるのも事実だが。
「待遇が広まったとて問題はない。どこの家でもあることだ、能力持ちの直系で無能力者が生まれたとなれば。」
冴は少しだけ安堵の表情を浮かべたが、まだ強張りが完全には解けていない。よほど自分の身が大切なのだろう。
鈴葉はあの日からずっとイライラしている。当たり前だ。これまでは全て自分の思う通りに事を運ぶことができていたのに、一番望んだと言っても過言ではない婚約者が手に入らなかったどころか、自分よりも下だと蔑んできた女に取られたのだから。
「鈴葉、このあとはいつも通りレッスンだ。最近、音色が乱れているから、意識して整えなさい。気持ちを乱されて音が乱れるようでは、戦闘はやっていけない。」
こんなふうに、レッスン以外の場面でもレッスンの話が出ることが、神楽家では当たり前である。しかし、今の鈴葉にはそれを受け入れる余裕すらない。
「今の状態でまともに吹けって言う方がおかしいわ!どうやればいいのよ!レッスン以外のときにレッスンの話を出さないで、お父様。」
しかし、何を思ったか、鈴葉はこの日から真面目に音楽の練習を始める。これまでも真面目にやってはいたが、一層気合いが入ったという感じだろうか。
翌日。学園に登校した鈴葉は、3人の取り巻きと話をしていた。
「鈴葉様、あの方の元へ行かれるのですか?おやめになった方がよろしいかと……。神楽家とあの方の家はあまり親交がないではありませんか。」
取り巻きが進言する。
「いいえ、行きますわ!今の私にはこれしかない。情報が手に入っていれば、きっとあの方も同じ気持ちのはずよ!」
休憩の時間、鈴葉は取り巻きを引き連れてとある先輩の元へと向かった。雲一つない快晴の下、中庭にいる1人の女性の元へ。
「ご機嫌麗しゅう。神楽家の次女、神楽琴葉ですわ。ご高名はかねがね。今日はあなたにお話があってまいりましたの。」
鈴葉は不敵に笑った。
ティーカップを少しだけ荒々しく置く。はしたない行動に、使用人兼教育係が少しだけ目を伏せた。
「だが、珀様は何度も琴葉がいいと言ったのだ。間違っているはずがないだろう。」
「何よ、お父様も琴葉の味方をするの?」
「そういうわけではないが……。」
愛娘に責められてオロオロする一家の大黒柱。玄は鈴葉には弱いのだ。
「一応こちらでも探りを入れているんだ。何か裏があるのではないかと思ってね。」
「そうに違いないわ!何か策がない限りあんな女を娶ろうだなんて思わないもの!その必要がなくなれば、きっと珀様は私と婚約してくださるわ。」
実際、そもそもなぜ珀が琴葉の存在を知っているのかが、神楽家一同疑問で仕方がない。もちろん、宝条の力をもってして調べれば琴葉の情報はすぐに出てくるだろう。しかし、宝条珀は女など毛ほども興味がない人間だ。何の理由もなくわざわざ琴葉について調べるなんてことがあるだろうか。
「あのお方は『神楽の伝統』と言っていらしたわ。あなた、何か大切な情報が漏れているのではなくって?それに、これまでのあの子の待遇が世間に知られたら……。」
冴は珀が琴葉をもらいに来てから、気が気でないのだ。今までの自らの行動を振り返って、それが何らかの理由で宝条家の癇に障るようなことでもあればと思うと、安心して寝られない。
「神楽のことは神楽が一番知っているに決まっている。万が一、情報が漏れていたとしても、神楽の能力を使いこなせるものか。」
戦闘能力で言えば宝条家が圧倒的なのだが、神楽家と浅桜家はその能力の不思議さから、権力を保ってきたと言っていい。もちろん、戦闘向きの力も多く、魔形討伐界隈では重宝されるのも事実だが。
「待遇が広まったとて問題はない。どこの家でもあることだ、能力持ちの直系で無能力者が生まれたとなれば。」
冴は少しだけ安堵の表情を浮かべたが、まだ強張りが完全には解けていない。よほど自分の身が大切なのだろう。
鈴葉はあの日からずっとイライラしている。当たり前だ。これまでは全て自分の思う通りに事を運ぶことができていたのに、一番望んだと言っても過言ではない婚約者が手に入らなかったどころか、自分よりも下だと蔑んできた女に取られたのだから。
「鈴葉、このあとはいつも通りレッスンだ。最近、音色が乱れているから、意識して整えなさい。気持ちを乱されて音が乱れるようでは、戦闘はやっていけない。」
こんなふうに、レッスン以外の場面でもレッスンの話が出ることが、神楽家では当たり前である。しかし、今の鈴葉にはそれを受け入れる余裕すらない。
「今の状態でまともに吹けって言う方がおかしいわ!どうやればいいのよ!レッスン以外のときにレッスンの話を出さないで、お父様。」
しかし、何を思ったか、鈴葉はこの日から真面目に音楽の練習を始める。これまでも真面目にやってはいたが、一層気合いが入ったという感じだろうか。
翌日。学園に登校した鈴葉は、3人の取り巻きと話をしていた。
「鈴葉様、あの方の元へ行かれるのですか?おやめになった方がよろしいかと……。神楽家とあの方の家はあまり親交がないではありませんか。」
取り巻きが進言する。
「いいえ、行きますわ!今の私にはこれしかない。情報が手に入っていれば、きっとあの方も同じ気持ちのはずよ!」
休憩の時間、鈴葉は取り巻きを引き連れてとある先輩の元へと向かった。雲一つない快晴の下、中庭にいる1人の女性の元へ。
「ご機嫌麗しゅう。神楽家の次女、神楽琴葉ですわ。ご高名はかねがね。今日はあなたにお話があってまいりましたの。」
鈴葉は不敵に笑った。