パーティーから1週間。琴葉はまた玄の執務室に呼ばれていた。何かやらかしてしまったのだろうか……。ずっと中庭にいてはだめだったのだろうか。
「宝条家から、縁談の申し込みが来ている。おそらく鈴葉が嫁に貰われることになるはずだ。そこで、これからは琴葉、お前を神楽の後継として育てる。」
「お姉様にそんな役が務まるかしら?絶対無理よ。無能なのに。」
鈴葉はいつも通り琴葉のことを貶しているが、頬が緩んでいるのを隠せていない。
「私は何をすればよろしいのでしょうか……。」
「黙って私の言うことを聞いていればいい。家庭教師をつけ、お前を一から叩き直す。」
「承知いたしました。」
拒否権はない。でも、でも、それでも。やはり自分は一切期待をすることを許されていないのだと琴葉は悟った。この間珀と一緒にいたのは短い時間だったが、それも鈴葉と結ばれるためのものだったのだろう。神楽家にはどのような人間がいるのか、直接確かめに来ただけ。
神様は琴葉に微笑んでくれることはない。
宝条と神楽の会談当日。家がバタバタとしているのが嫌でも感じ取れた。鈴葉が最大限のおめかしをしているのだろう。
琴葉は自室を掃除していた。鏡を拭きながら、自分の容姿を改めて眺める。華やかさなどかけらもない、黒髪に薄い顔。やはり何度見ても自分が鈴葉と双子なのが信じられない。二卵性双生児だとしても、あまりに似ていなさすぎる。
少しため息をついて、ベッドに腰掛けた。
しばらくして、部屋の扉がノックされる。
「琴葉様、玄様がお呼びです。至急、身支度をして応接室までおいでください。」
最近は玄に呼び出されることが多い。多すぎる。しかも、なぜ珀が来ているはずの応接室にわざわざ呼ぶのだ。
軽く身なりを整えて、急いで応接室に行く。中で少し言い争っている声が聞こえた。
「失礼いたします。」
部屋の中の人間が一気にこちらを向く。何かお咎めがあるのだろうか。
「どうして!?こんな女よりも私の方がよっぽど珀様の隣にふさわしいわ!珀様!どうかお考えを……!」
珀がこちらに向かってくる。全てがスローモーションに思えた。手を取られ、はっきりと珀が言い切る。
「私、宝条珀は神楽琴葉さんを嫁に迎えたく思っています。宝条家の力はご存じですよね?玄さん。」
この間のオラついた雰囲気とは一変して、怪しい営業スマイルを浮かべた珀の目が赤く光る。
「わかっていますよ、宝条家次期当主様。しかし、琴葉は無能力者。一方で鈴葉は神楽伝統の能力、”笛吹き”を発現して、戦闘能力もかなり高いです。あなた様には鈴葉の方がお似合いかと。」
流石は神楽家当主。オーラのある宝条家次期当主を前にしても、堂々としている。でも、余裕が全く違う。ふっと笑った珀はため息をついた。その仕草だけで、鈴葉だけでなく、冴までも頬を染めるほどの美しさ。
「神楽家当主は神楽の伝統のこともわかっていないのですね。全く呆れました。私にふさわしい女は私が決めます。それとも、宝条にはむかいたいのでしょうか?」
玄が焦った顔をする。珀は一息ついて、こう続けた。
「しかし、あなた方の琴葉さんへの待遇は見ていて気持ちのいいものではありませんね。一刻も早く、琴葉さんを宝条家へと連れて行きたい。」
琴葉は現状に頭が追いついていなかった。あの宝条珀が自分に縁談を申し込んできたのだ。淡い期待を持ったとはいえ、こうも現実になるとついていくことができない。
「というわけで、琴葉さんと婚約させていただきますね、玄さん?」
え……?と思った時には誰も逆らうことができず、珀と琴葉は婚約することになったのだった。
ピリピリとした応接室で、珀にエスコートされ、隣に座っていたら、すぐに宝条家のリムジンが来て、あっという間に引っ越しが始まった。
宝条家のメイドたちだろうか、何人かが琴葉の自室に入ったかと思うと、荷物がまとめられ、珀が何か能力を使うと、次の瞬間には自室は空っぽになった。
リムジンに乗り込む時、新人メイド2人だけが見送りに来てくれていた。それ以外は当然のように誰もいない。
「宝条家から、縁談の申し込みが来ている。おそらく鈴葉が嫁に貰われることになるはずだ。そこで、これからは琴葉、お前を神楽の後継として育てる。」
「お姉様にそんな役が務まるかしら?絶対無理よ。無能なのに。」
鈴葉はいつも通り琴葉のことを貶しているが、頬が緩んでいるのを隠せていない。
「私は何をすればよろしいのでしょうか……。」
「黙って私の言うことを聞いていればいい。家庭教師をつけ、お前を一から叩き直す。」
「承知いたしました。」
拒否権はない。でも、でも、それでも。やはり自分は一切期待をすることを許されていないのだと琴葉は悟った。この間珀と一緒にいたのは短い時間だったが、それも鈴葉と結ばれるためのものだったのだろう。神楽家にはどのような人間がいるのか、直接確かめに来ただけ。
神様は琴葉に微笑んでくれることはない。
宝条と神楽の会談当日。家がバタバタとしているのが嫌でも感じ取れた。鈴葉が最大限のおめかしをしているのだろう。
琴葉は自室を掃除していた。鏡を拭きながら、自分の容姿を改めて眺める。華やかさなどかけらもない、黒髪に薄い顔。やはり何度見ても自分が鈴葉と双子なのが信じられない。二卵性双生児だとしても、あまりに似ていなさすぎる。
少しため息をついて、ベッドに腰掛けた。
しばらくして、部屋の扉がノックされる。
「琴葉様、玄様がお呼びです。至急、身支度をして応接室までおいでください。」
最近は玄に呼び出されることが多い。多すぎる。しかも、なぜ珀が来ているはずの応接室にわざわざ呼ぶのだ。
軽く身なりを整えて、急いで応接室に行く。中で少し言い争っている声が聞こえた。
「失礼いたします。」
部屋の中の人間が一気にこちらを向く。何かお咎めがあるのだろうか。
「どうして!?こんな女よりも私の方がよっぽど珀様の隣にふさわしいわ!珀様!どうかお考えを……!」
珀がこちらに向かってくる。全てがスローモーションに思えた。手を取られ、はっきりと珀が言い切る。
「私、宝条珀は神楽琴葉さんを嫁に迎えたく思っています。宝条家の力はご存じですよね?玄さん。」
この間のオラついた雰囲気とは一変して、怪しい営業スマイルを浮かべた珀の目が赤く光る。
「わかっていますよ、宝条家次期当主様。しかし、琴葉は無能力者。一方で鈴葉は神楽伝統の能力、”笛吹き”を発現して、戦闘能力もかなり高いです。あなた様には鈴葉の方がお似合いかと。」
流石は神楽家当主。オーラのある宝条家次期当主を前にしても、堂々としている。でも、余裕が全く違う。ふっと笑った珀はため息をついた。その仕草だけで、鈴葉だけでなく、冴までも頬を染めるほどの美しさ。
「神楽家当主は神楽の伝統のこともわかっていないのですね。全く呆れました。私にふさわしい女は私が決めます。それとも、宝条にはむかいたいのでしょうか?」
玄が焦った顔をする。珀は一息ついて、こう続けた。
「しかし、あなた方の琴葉さんへの待遇は見ていて気持ちのいいものではありませんね。一刻も早く、琴葉さんを宝条家へと連れて行きたい。」
琴葉は現状に頭が追いついていなかった。あの宝条珀が自分に縁談を申し込んできたのだ。淡い期待を持ったとはいえ、こうも現実になるとついていくことができない。
「というわけで、琴葉さんと婚約させていただきますね、玄さん?」
え……?と思った時には誰も逆らうことができず、珀と琴葉は婚約することになったのだった。
ピリピリとした応接室で、珀にエスコートされ、隣に座っていたら、すぐに宝条家のリムジンが来て、あっという間に引っ越しが始まった。
宝条家のメイドたちだろうか、何人かが琴葉の自室に入ったかと思うと、荷物がまとめられ、珀が何か能力を使うと、次の瞬間には自室は空っぽになった。
リムジンに乗り込む時、新人メイド2人だけが見送りに来てくれていた。それ以外は当然のように誰もいない。