次の日。
白石湊斗は編集部の会議室で上司の鋭い視線を浴びていた。デスクの上には、最近手掛けた記事のコピーが無造作に散らばっている。
「白石、お前のこの数字を見てみろ!」
上司の声が部屋中に響いた。彼は手元の資料を叩きつけるように見せつける。
「一生懸命やっているのは分かる。でもな、結果が伴わなければ意味がないんだ。記事を書くのは自己満足のためじゃない。読者に読んでもらい、話題を作ることだろう?」
白石はぐっと歯を食いしばりながら、上司の言葉を受け止めた。彼の中には言い訳が山ほど浮かんでいたが、口には出さなかった。
「分かってます。でも、最近の取材は本当に手応えを感じているんです。あと少しで形になると思うので、もう少しだけ時間をください。」
「時間?そんな悠長なことを言っている余裕があると思うか?次の締め切りまでに結果を出せ。いいな?」
上司はそう言い残し、部屋を出ていった。扉が閉まると、白石は深いため息をついた。
「結果、結果か…」
自分のメモ帳をパラパラとめくる。
「九条朔夜の作品を前に人々が感じるのは本当に美しさだけか? 症状は吐き気、頭痛、倦怠感…」
このネタが目に止まる。いかにもオカルトのようなネタだ。いつもなら見逃しているだろう…。
あの場所の不気味な静けさ、美しすぎる彫刻、そして展示室の隅で体調不良を訴えていた人々の様子。
何か異常があった。あの彫刻には、他の作品にはない特別な「何か」が込められていると確信していた。
「九条朔夜…」
その名前を呟いた瞬間、胸の中で小さな火が灯った。彼の作品には何か裏がある。
それを暴けば、自分の求めている「真実」にたどり着けるかもしれない――そして、それが次の記事の突破口になるかもしれない。