（画面は揺れる手持ちカメラの映像。薄暗い室内で、70代くらいの男性が座って話している。背後には古いタンスやすすけた壁が映っており、時折外から吹き込む風の音が聞こえる。）

住民A（男性、70代）：
「赤い花？ いや、そんなもん見たことねぇな。ただ、あんたが言う“赤い”っつうのが、あの、津波の後のことなら、違う話は知ってるよ。」

（男性の目が一瞬泳ぎ、視線を下げる。手元でコップの水を揺らしながら、低い声で続ける。）

住民A：
「あれはな……死体の列さ。川沿いに、家の崩れた下から、海辺にまで並んでた。人間なんだろうけど、赤く腫れて爛れて……花なんかじゃねぇ。ただ腐った肉が赤く光るだけだ。」

（カメラが男性の震える手元を捉える。指先が小刻みに動いている。）

住民A：
「でも、変な話があるんだ。あの災害の後、赤い花を持った女の子がいるって噂が出たんだよ。最初は誰かが子供を見かけただけだって言ってた。

でもな、その子が現れる場所って……決まって川とか海の近くだ。そんで、その日か次の日には、誰かしらいなくなる。」

（カメラが男性の顔をズーム。目が虚ろになり、口元が微かに震えている。）

住民A：
「引き摺り込むんだとよ。川の底か、海の底に……。一緒に赤い花持たせてな。実際に行方不明になった人も何人かいるけど、探してもどこにもいねぇ。ただ……ただな……」

（男性が突然言葉を止め、視線をカメラの後ろに向ける。撮影者が小さく「どうしました？」と聞く声が入る。）

住民A（震える声）：
「赤い目……！ その子の目、裁くように睨むんだってさ。罪を問うような目で……おい、そこに何か見えてねぇか？」

（カメラが激しく揺れる。撮影者が「何もいませんよ！」と答える声が震える中、男性は立ち上がり、窓の外を指差して何かをつぶやき始める。）

住民A（小声）：
「俺を見てる……赤い花じゃなくて、赤い目が、俺を見てる……。」
（映像は突然途切れ、砂嵐の画面に変わる。）