それから間もなく、九条はその街を離れた。何も告げず、誰にも知らせず、ひっそりと姿を消した。彼の心は空っぽだったが、それでも彼は歩き続けた。

その足取りの先にあったのは、かつて描いた未来でもなく、ただ彫刻という「作品」を作り上げることだけだった。

篠宮の遺灰を密かに盗み、九条はそれを使って新しい彫刻を作り始めた。かつての友人、篠宮悠生をその中に閉じ込めるために。

彫刻家、九条朔夜が誕生した瞬間だった。

新たな町で、九条は誰にも知られないようにひっそりと彫刻の制作に没頭した。過去と向き合いながら、篠宮の記憶をかたちにすることに全力を注いだ。

その彫刻は、ただ美しいものではなく、篠宮への未練、後悔、そして何よりも自分の罪を表現するものだった。彼にとっては、作品とは自らの痛みを形にしたものに他ならなかった。

その彫刻には、篠宮の遺灰が少しずつ溶け込み、まるで彼の魂が彫刻の中に閉じ込められているかのようだった。完成した彫刻は、彼の中で何かが崩れ去るのを感じさせるものだった。

それは他人にとってはただの芸術作品に過ぎなかったが、九条にとっては、自分の罪を償うための唯一の方法だった。

そして、彼が新たな町に根を下ろすとともに、その彫刻家としての名が少しずつ広まり始める。

だが、九条は誰にも過去を語らなかった。彼にとって過去とは、全ての根源であり、同時に最大の負債であった。

彫刻の前で彼は静かに立ち、篠宮のことを思う。それは、芸術として表現された友人への最後の贈り物だった。

しかしその一方で、九条は自分自身を許すことができなかった。それは、彼が作り出した芸術がどれだけ完璧に見えたとしても、心の中で永遠に解決できない問題が残り続けるからだった。