町は、壊滅的な状態に陥っていた。機能していないインフラ、崩れた建物、そして瓦礫の山。

生き残った人々は、必死で生きるために集まっていたが、何もかもが手遅れで、状況は悪化するばかりだった。遺体を火葬する設備すらなく、弔う余裕すらない。

その中で、遺体は一時的に埋葬されることになった。何千もの命が、瓦礫に埋もれたままだった。

町の一角に、遺体を埋めるための仮の場所が設けられた。そこには、家族や知人が無理やり作った簡易な墓標が並べられ、あまりにも多くの命が土に還されていった。

九条はその一部となり、作業を続けていた。彼の手は、無感情に動き続ける。遺体を運び、土に埋める。

その繰り返しの中で、彼は自分が何をしているのか、だんだんと分からなくなっていた。自分が手に取った遺体を埋め、次の遺体を運ぶことが、ただ機械的な作業に変わり、心はもうそのすべてから解放されていた。

埋葬された無数の人々の顔は、もはや彼の記憶の中でもぼやけて、区別がつかなくなっていた。

「なぜ、こうなったんだろう…」

九条は、自分の手が震えるのを感じていた。

しかし、その震えは恐怖でも、悲しみでもなかった。むしろ、何も感じられなくなった自分に対する苦しみだった。

生き残ったという現実が、彼には耐え難いものだった。どれだけ必死に生きても、彼の心には答えがなかった。

瓦礫の下で息を呑むように死んでいった人々。

九条は、何度もその姿を頭に浮かべた。そして、その中で最も鮮明に浮かぶのは、篠宮悠生の顔だった。

親友を亡くし、無力感に打ちひしがれる彼の心の中で、篠宮が叫び続ける。

「俺を置いて生き残ったのか?」

その問いかけに、答えることができなかった。

それでも、九条は自分を責め続けていた。生きることが許されているのに、何もできない自分に対して。

「これが終わらなければ、前に進めない。」

その言葉が、九条の心に深く刻まれていった。篠宮を失った悲しみ、それでも何かをしなければ生きていけないという思いが、彼を突き動かしていた。

だが、その心の中で、何かが深く傷ついていく音が聞こえた。

遺体を埋めるたびに、九条の中で何かが消えていくようだった。そんな中、何度も同じ作業を繰り返しながら、九条は自分を責め続けていた。

「どうして、俺だけが生き残ったんだろう。」

その言葉が彼の胸に重くのしかかる。瓦礫の中で、篠宮を含む多くの命が奪われ、九条は取り残された。

無力な自分が、このように生き残ることが、彼にとっては呪いのように感じられた。

「俺は、何をしているんだろう?」

九条は手を止め、目の前の遺体を見つめる。彼の胸の中で、何度も篠宮の顔が浮かび上がっていた。