瓦礫の下から、次々と無力な手が伸びてくる。倒壊した建物の断片を引き剥がし、まだ動くことのできる者たちが必死に自分の周囲を掘り起こし、遺体を取り出していた。

けれど、その目の前で、無情にも命を失った者たちの姿が、静かに絶望を教えていた。

被災の後、辺り一面は死と混乱に包まれ、周囲のすべてが崩れ落ちていた。瓦礫の中で見つけた遺体は、無惨に歪んでいた。

生き残った人々は、泣きながら、叫びながら、その命を繋ぐために、必死に手を動かしていた。

九条は、そんな中で一際目を見開いていた。倒れた壁を手で押し上げ、肩を震わせながら、目の前の遺体に近づく。ふと、目を疑った。

破片の間に埋もれているのは――悠生の姿だった。

呆然と、その遺体を見つめる九条の目は、動かない。親友が、今、目の前で死んでいる。信じたくなかった。

こんな形で、こんな無惨な死に方をするなんて――悠生の顔が、まるで眠っているかのように見える。九条はその死に直面し、言葉が喉から出なかった。

無意識に動いている自分を感じながらも、次に目を向けた先には悠生の赤いジャージが見えた。それは、九条が何度も見たことのある大切な、親友が愛用していたものだ。

目の前の遺体を持って行かれる前に――そう思った。九条は震える手で、悠生の亡骸に近づき、無理矢理に赤いジャージを剥ぎ取った。

息を呑むような感覚に包まれながら、引き裂くようにその服を自分の手に引き寄せると、悠生の体がさらに無惨に見えた。

だが、それをした時、心の中で叫び声が響く。どうして、どうしてこんなことをしているんだろう――。けれど、答えは出なかった。

手元にあったジャージを胸に抱えたその瞬間、九条の内心は穏やかではなくなった。彼は、胸が締め付けられるような感覚と同時に、さらに深く悠生を失った悲しみを抱え込むことになる。