白石はさらに調査を進めるため、大学へと話を聞きに行くことにした。地元を離れ、遠い美術大学に進学したらしい。

白石は、九条の学生時代の人間関係を調べるため、九条が通っていた大学を訪れ、彫刻を担当していた教授に話を聞くことにした。

教授は、九条をよく覚えているようで、懐かしそうに語り始めた。

「九条君か……彼はとても真面目でね。遅刻や欠席なんてまずなかったし、課題も完璧に仕上げてきたよ。

ただ、あまり社交的ではなかったなあ。友達という友達がいるようには見えなかった。」

白石はメモを取りながら、教授の話に耳を傾けた。しかし、次の言葉に少し身を乗り出した。

「そうだなあ……唯一、誰かと一緒にいるのを見かけたのは、眞藤さんだったな。」

「それって……眞藤文さんのことですか?」

白石は聞き返す。

「ええ、同じ学科の学生だったよ。二人で一緒にいる姿を時々見かけたが、何を話しているのかはわからなかったな。眞藤さんも静かな学生で、特に目立つ存在ではなかった。」

その名前を聞いた瞬間、白石の記憶がフラッシュバックした。

被災地の記録写真で、九条の隣に写っていた少女――あの無表情で何かを抱えるように佇んでいた人物の顔が脳裏に浮かぶ。

「眞藤さん、今どこにいるかご存じですか?」

教授はしばらく考え込んでから首を振った。

「いや、卒業後のことは全く知らないね。ただ、眞藤さんもかなり影の薄い学生だったから、覚えている人は少ないかもしれないな。」

白石はメモ帳を閉じ、軽く頭を下げた。

「ありがとうございます、教授。」

大学を後にした白石の頭の中では、「眞藤」という名前がぐるぐると回っていた。

九条の過去に何か鍵があるのだとしたら、この眞藤という女性は重要な存在に違いない。

あの被災地の写真と九条の作品、そしてこの新しい名前――それらがすべて繋がる瞬間が近づいているのではないかと、白石は確信し始めていた。