白石は展覧会のスタッフに話を聞くため、響霧美術館の控室を訪れていた。

彼が切り出すと、スタッフたちは初めは穏やかな態度で対応していた。

だが、話が「体調不良者」に及ぶと、全員が揃って急に無口になり、互いに目を合わせるだけだった。

「実際のところ、体調不良者がいるのは事実なんですよね？」

白石が確認すると、一人のスタッフが重い口を開いた。

「ええ、確かに。定期的に頭痛や倦怠感を訴える人はいます。でも……みんな、自分たちでなんとかするって言うんです。」

「どういう意味ですか？病院や警察には通報してないんですか？」

白石の質問に、別のスタッフが苦い顔をしながら答えた。

「そうです。全員がそう言います。『気にしないでくれ』って。それで通報もしていないし、診断書を持ってきた人もいません。」

白石はその言葉に驚き、思わず立ち上がった。

「何言ってるんですか！これは重大な問題ですよ！そんな対応で済ませていいわけが――」

突然、近くにいた年配のスタッフが鋭い声で白石を制した。

「静かにしなさい！ここは九条先生の作品を守る場所だ。騒ぎを起こすなら、出て行ってもらう！」

白石はその怒りに満ちた声に思わず口を閉ざしたが、胸の中で抑えられない違和感と疑念が膨らんでいた。

スタッフたちの態度に何か裏があるのは明らかだった。なぜ誰も声を上げないのか。

なぜこの状況を隠すのか。そして何より、九条朔夜の作品が引き起こしている現象に対して、なぜそこまで黙認するのか――白石はその場を離れる際、拳を握りしめながら、次の行動を決意した。