日時：2025年2月18日
場所：九条朔夜のアトリエ

インタビュアー：「今日はお話を聞かせてくれてありがとうね。」

少女：「うん。でもおともだちがさみしいっていうから、はやくしてね。」

6歳前後に見える少女は、少しだけ首を傾げながら、赤い花を両手で握りしめていた。

髪の毛は少し湿ったように重たく垂れ下がり、服には泥がついている。

赤い花が握られた小さな手は、どこか無表情な顔とは対照的に、妙に強い力で閉じられているのがわかる。

インタビュアー：「そのお花、とてもきれいだね。どこで見つけたの？」

少女：「お友達がくれたの。九条先生が“これは特別なお花”だって言ってた。これがあれば、私、ちゃんと一緒にいられるんだって。」

彼女は語るとき、どこかぎこちない笑顔を見せた。その声は子どものそれであるはずなのに、奇妙に抑揚がなく、単調だった。

インタビュアー：「そのお友達はどんな人かな？」

少女：「お友達って、私だよ。」

少女はあどけない顔で、そんな不可解な答えを返してきた。

インタビュアー：「君自身が、お友達なの？」

少女：「うん。だって、九条先生が教えてくれたんだもん。私は生きてるし、死んでるんだって。」

その言葉にインタビュアーの手が一瞬止まる。彼女の小さな体から放たれる矛盾した答えに、背筋を刺すような寒気を覚えた。

インタビュアー：「それはどういう意味かな？君が生きてるし、死んでるって…？」

少女：「だってね、津波で私、お水に沈んだの。

でも、そのあと九条先生が“ちゃんと帰ってこれる”って教えてくれたの。だから私は帰ってきた。でも、死んでるのも忘れちゃだめなんだって。」

彼女の言葉は奇妙に理路整然としていた。それでも、その内容は到底理解できるものではない。

インタビュアー：「君は今ここにいるし、元気そうに見えるよ。」

少女：「そうだよ。でも、ほら。」

彼女は小さな手をインタビュアーの前に差し出した。その手は湿り気を帯び、どこか冷たい。赤い花を握る指先の隙間から、水がぽたぽたと床に落ちる音が響いた。

インタビュアー：「これは…？」

少女：「だって、私はお水の中に帰る子だから。ねえ、お兄さんもお友達になれるよ。九条先生がきっと教えてくれる。」

その言葉に彼女の顔は、初めて「子どもらしい」笑顔を浮かべた。

だが、それが愛らしいものではなく、どこか不気味で、空洞の中で響くような印象を与えたのは、彼女の声のトーンが冷たく、どこか狂信的だったからだろう。

少女は部屋を去る際、誰に言うでもなく「またお水の中に帰るね」と小さくつぶやいた。

スタッフが彼女を追おうとしたが、既に姿はなく、後には床に散らばった赤い花びらと水たまりだけが残されていた。

それがいつどこで拾われたものか、あるいはどこに流れた水なのか、説明する手段はない。