「降れば良かったのに」
私こと志田日香は大学から徒歩10分のところにある下宿先のアパートの二階から星の瞬く夜空を見上げていた。
──今夜はクリスマスイブ。
窓辺から寄り添って歩いていくカップルを見るたびに、雨でも降れば良かったのにと黒いモヤモヤした感情が湧いてくる。
「はぁ。ほんと最悪のクリスマス」
三か月前まで雑然としていた部屋は寂しいほどにスッキリと片付いている。
彼が置いていたスウェットと着替えは二週間前にやっと捨てた。
二本並べて置いていた歯ブラシも今は一本にし、彼と一緒に使っていたお気に入りの枕も三日前にようやく捨てた。
「あれも早く捨てなきゃ」
そう思うのに私が唯一捨てられないのが写真だ。
「撮らなきゃ良かった……」
いや正確には印刷しなきゃ良かった。
スマホのデータは散々迷ってすでに全部消去した。でもなぜだが写真だけがいまだに捨てられない。
私は手帳からわずかにはみ出している写真を手に取ると、静かにため息を吐き出した。
そこには顔を寄せ合っている私と元恋人の彰人が幸せそうな笑顔を見せている。
「……ほんとに好きだったのにな」
ポツリとそう呟けば、あっという間に写真の中の二人がぼやけてくる。
私が目元を手の甲で雑に拭うと同時にテーブルの上に置いていたスマホが震えた。
──『ご飯たべにくる? どうせ暇でしょ?』
メッセージの相手は同じ大学の天文サークルの山下純だ。
純とは同じ英文科で地元が近かったこともあり、すぐに打ち解けた。
私にとって一人しかいない所謂男友達というやつだ。
別に顔もタイプじゃないし恋愛感情は皆無だ。
でも話してると楽しくて心地よくて、よく考えたらサークル内では一番よく話しているかもしれない。
(でも今日はイブだし、さすがにそんな気分になれないな)
『ごめん、今日は……』
私がそう入力してる側から純からまたLINEがくる。
──『日香の好きな親子丼作るけど』
「マジかぁ」
正直、彰人と行こうと話していたクリスマスディズニーに行けない上に、彰人との写真を見つめて感傷的になっていた私だが、純の親子丼と聞いた途端、お腹の音がぐーっと鳴る。
「てゆうかイブならチキンじゃないの?」
私はひとりでツッコミを入れながらもダウンジャケットに目をやる。
「純の親子丼絶品なんだよね……それにクリスマスイブにカップラーメンも忍びないし」
私は純に『いまから行く』とスタンプもなしにそれだけ送ると、着替えることなくモコモコのルームウェアにダウンジャケットを羽織り、斜め向かいのアパートに住む純の元へと向かった。
純のアパートに到着し、インターホンを押そうとした瞬間、玄関の扉が開く。
「え? 私が来るの見てたの?」
「ストーカーかよ、俺をなんだと思ってんの」
眉を顰めた私を見ながら、純があきれたような顔をする。
「もうすぐ雪が降るかもだから傘持ってこいって言いたかったのに、LINE既読にならないからまだ家居るなら言いにいってやろうかなって」
「あ、ごめん。そうなんだ。でももし雪降ったら純の傘貸してよ」
「俺、傘一本しかなくてそれも大学に忘れてきた」
「え〜っ」
「日香に文句言われたくないけどな。ま、いいや。食ったらすぐ帰れ」
純はダウンジャケットを脱ぎながら、私にすでに玄関先に用意されていたスリッパを指差すとリビングへと先に歩いていく。
リビングに入ればすぐに出汁とお砂糖の混ざったような匂いが鼻を掠める。
「いい匂い……」
「そこ座って、もうできるから」
「うそ、はやっ」
「シゴデキなんで」
「はいはい」
いつものようにそんな掛け合いをしながら私は二人がけのダイニングテーブルに腰掛ける。
彰人と別れてから純の家にくるのはもう5回目だ。
いつもここに来ては料理が得意な純のご飯を食べながら、未練がましく彰人の話を聞いてもらっていた。
純の部屋は相変わらず整理整頓がきちんとされていて、センスのいい家具がうまく配置されている。
「てゆうか、純もイブなのに予定ないの?」
「お互い様でしょ」
「あ、でもさ純、この間告白されてたじゃん。あの子とは付き合わないの?」
偶然だが、私は先週、同じ英文科の後輩が純に告白してるのを見かけたのだ。
「それこの間も話したけど、好きじゃないから」
純は、おしゃれなどんぶりに親子丼をよそいながらぶっきらぼうに返事をする。
「純って以外とそういうとこはっきりしてるよね」
純は人当たりがよく、サークル内で誰かに頼みごとをされても嫌な顔ひとつせずに引き受ける姿を私は何度も見たことがある。
「そういうところだからハッキリした方がいいんだよ」
「え?」
「誰かの想いって受け取って向き合えないなら初めから受け取るべきじゃないと思うから」
ふいに真面目な顔の純に私はどきっとする。
「日香はさ、もっと怒れば良かったのに」
「だって……」
彰人と交際して半年。ずっと知らなかったが、私は二股されていた。さらに彰人にはもう一人の彼女の方が本命だったのだ。
二人で過ごしている時に、偶然彰人のLINEのポップアップ通知をみたことから二股が発覚し、私は彰人を問い詰めたが、彰人は悪びれた様子もなくそのまま荷物を残して出て行った。
そしてそれっきり連絡しても無視され、二度と彰人が戻ってくることはなかった。
「どうしようもないじゃん……人の気持ちなんて……どうやっても変えられない。変わらないもん」
「…………」
でもどこかでまた私の方が良かったといって彰人が帰ってくるような気がして、私は彰人の荷物がなかなか捨てられなかった。
それほど恋に溺れていた。
初めて会ったときからなぜだか惹かれて、彰人から付き合ってほしいと言われた時はこの人に会うために生まれてきたんだなんて、そんな、らしくないことを考えるくらい好きだった。
そんな私に訪れた突然の恋の別れは、もう二度と恋なんてできない、そう強く思うほどに私の心の真ん中はいまだにぽっかり穴があいたままだ。
「おまちどうさま」
純がテーブルに親子丼を二つ置いて麦茶を注ぎ入れる。
「冷めないうちに食えよ」
「うん……」
親子丼を一口くちに含むと美味しさが口内に広がって、何故だかころんと涙が転がった。
「……おいしい」
「良かった」
純はそう言うと、黙ってティッシュの箱を私の手元へ置いた。
私はティッシュで涙を拭いながら親子丼を黙々と食べていく。
「……ご馳走さまでした」
そう言い終わるとお腹は満たされたのに、すごく虚しくて悲しくて涙が止まらなくなる。
「……日香にはもっといい人がいる。ちゃんと日香を大事にしてくれる人」
「いい加減なこと言わないで……っ……」
「いい加減じゃないよ」
純はそう言うと、私をまっすぐに見つめた。
「俺は日香が好きだから」
(──え?)
一瞬、聞き間違えたのかと思ったが純の瞳は今までみたことないくらいに真剣だった。
私の涙はあっという間に止まり、こんどは心臓がとくとく駆け足になる。
「あ、の……」
どうしたらいいのかわからない私に純がバツの悪そうな顔をする。
「ごめん、言うつもりなかったのに。日香をこんな泣かせる奴いると思うと、なんか腹が立って……その、つい」
純はガシガシと柔らかい黒髪をかくと眉を下げた。
「受け取ってもらえない想いってわかってるからさっさと断ってくれていい」
そう、純はタイプじゃない。恋愛感情なんてない。
でもなぜだろう。なせだかわからないのに、断る言葉が出てこない。好きじゃないけど嫌じゃなくて、純の気持ちが心の穴の中にすっと入ってくる。
私は考えがまとまらない中、純を待たせるのも悪いと感じてゆっくりと口を開く。
「わかん、ない……」
「え?」
純が途端に怪訝な顔をする。
「えっと、それじゃあ俺もよくわかんないんだけど……?」
「だよね……でも他に言葉が見つからなくて」
「断るの遠慮してるとか?」
「違……っ、そのわかんないけど……嫌じゃないの」
「でも俺のこと好きじゃないだろ?」
好きじゃない?
ほんとに?
じゃあなんですぐに断らないの?
自問自答を繰り返しながら、ぐるぐる思考は巡るがやっぱり答えが見つからない。
「わかんない」
「まいったな……」
(どうしよう……)
私はせっかく想いを伝えてくれた純にもう少し誠実に返事ができないか思案する。
そして、私がふと窓辺に視線を移した時だった。
「あ、雪……」
その言葉に純も窓辺に視線を向けた。
「お、結構降ってんな……俺、コンビニで傘買ってくるわ」
「待って」
純が立ちあがろうとするのを見て、私は慌てて純を制止する。
「日香?」
「雪……止むまでここにいてもいい?」
「それはいいけど……いつ止むかわかんないけど?」
「その、純さえ良ければ……えっと暇、だし……」
「お、う」
「私の純への想いをその……ちゃんと頭で纏めてから話すから……」
「分かった、じゃあ……コーヒーでも淹れるか」
純はふっと笑うとそう言って席を立つ。
そして私は純の後ろ姿を見ながら、あることに気づく。
それは私がここにくるまで心の真ん中にぽっかり空いていた穴に膜が張っていること。
それはきっと──純の優しさのお陰だ。
優しさの膜に包まれたこの心は、雪が止む頃にはほんの少しだけ強くなって前を向ける、そんな気がした。
じゃあ、私の純への想いは──?
神様にそう聞かれてもきっとその答えは今夜中には出ないだろう。
けれど、今夜はクリスマスイブ。
サンタさんから私へのクリスマスプレゼントは、私のためにコーヒーを淹れてくれている目の前の彼なのかもしれない、なんて思った。
2024.12.24遊野煌 メリークリスマス🎄🎅
※フリー素材です。
私こと志田日香は大学から徒歩10分のところにある下宿先のアパートの二階から星の瞬く夜空を見上げていた。
──今夜はクリスマスイブ。
窓辺から寄り添って歩いていくカップルを見るたびに、雨でも降れば良かったのにと黒いモヤモヤした感情が湧いてくる。
「はぁ。ほんと最悪のクリスマス」
三か月前まで雑然としていた部屋は寂しいほどにスッキリと片付いている。
彼が置いていたスウェットと着替えは二週間前にやっと捨てた。
二本並べて置いていた歯ブラシも今は一本にし、彼と一緒に使っていたお気に入りの枕も三日前にようやく捨てた。
「あれも早く捨てなきゃ」
そう思うのに私が唯一捨てられないのが写真だ。
「撮らなきゃ良かった……」
いや正確には印刷しなきゃ良かった。
スマホのデータは散々迷ってすでに全部消去した。でもなぜだが写真だけがいまだに捨てられない。
私は手帳からわずかにはみ出している写真を手に取ると、静かにため息を吐き出した。
そこには顔を寄せ合っている私と元恋人の彰人が幸せそうな笑顔を見せている。
「……ほんとに好きだったのにな」
ポツリとそう呟けば、あっという間に写真の中の二人がぼやけてくる。
私が目元を手の甲で雑に拭うと同時にテーブルの上に置いていたスマホが震えた。
──『ご飯たべにくる? どうせ暇でしょ?』
メッセージの相手は同じ大学の天文サークルの山下純だ。
純とは同じ英文科で地元が近かったこともあり、すぐに打ち解けた。
私にとって一人しかいない所謂男友達というやつだ。
別に顔もタイプじゃないし恋愛感情は皆無だ。
でも話してると楽しくて心地よくて、よく考えたらサークル内では一番よく話しているかもしれない。
(でも今日はイブだし、さすがにそんな気分になれないな)
『ごめん、今日は……』
私がそう入力してる側から純からまたLINEがくる。
──『日香の好きな親子丼作るけど』
「マジかぁ」
正直、彰人と行こうと話していたクリスマスディズニーに行けない上に、彰人との写真を見つめて感傷的になっていた私だが、純の親子丼と聞いた途端、お腹の音がぐーっと鳴る。
「てゆうかイブならチキンじゃないの?」
私はひとりでツッコミを入れながらもダウンジャケットに目をやる。
「純の親子丼絶品なんだよね……それにクリスマスイブにカップラーメンも忍びないし」
私は純に『いまから行く』とスタンプもなしにそれだけ送ると、着替えることなくモコモコのルームウェアにダウンジャケットを羽織り、斜め向かいのアパートに住む純の元へと向かった。
純のアパートに到着し、インターホンを押そうとした瞬間、玄関の扉が開く。
「え? 私が来るの見てたの?」
「ストーカーかよ、俺をなんだと思ってんの」
眉を顰めた私を見ながら、純があきれたような顔をする。
「もうすぐ雪が降るかもだから傘持ってこいって言いたかったのに、LINE既読にならないからまだ家居るなら言いにいってやろうかなって」
「あ、ごめん。そうなんだ。でももし雪降ったら純の傘貸してよ」
「俺、傘一本しかなくてそれも大学に忘れてきた」
「え〜っ」
「日香に文句言われたくないけどな。ま、いいや。食ったらすぐ帰れ」
純はダウンジャケットを脱ぎながら、私にすでに玄関先に用意されていたスリッパを指差すとリビングへと先に歩いていく。
リビングに入ればすぐに出汁とお砂糖の混ざったような匂いが鼻を掠める。
「いい匂い……」
「そこ座って、もうできるから」
「うそ、はやっ」
「シゴデキなんで」
「はいはい」
いつものようにそんな掛け合いをしながら私は二人がけのダイニングテーブルに腰掛ける。
彰人と別れてから純の家にくるのはもう5回目だ。
いつもここに来ては料理が得意な純のご飯を食べながら、未練がましく彰人の話を聞いてもらっていた。
純の部屋は相変わらず整理整頓がきちんとされていて、センスのいい家具がうまく配置されている。
「てゆうか、純もイブなのに予定ないの?」
「お互い様でしょ」
「あ、でもさ純、この間告白されてたじゃん。あの子とは付き合わないの?」
偶然だが、私は先週、同じ英文科の後輩が純に告白してるのを見かけたのだ。
「それこの間も話したけど、好きじゃないから」
純は、おしゃれなどんぶりに親子丼をよそいながらぶっきらぼうに返事をする。
「純って以外とそういうとこはっきりしてるよね」
純は人当たりがよく、サークル内で誰かに頼みごとをされても嫌な顔ひとつせずに引き受ける姿を私は何度も見たことがある。
「そういうところだからハッキリした方がいいんだよ」
「え?」
「誰かの想いって受け取って向き合えないなら初めから受け取るべきじゃないと思うから」
ふいに真面目な顔の純に私はどきっとする。
「日香はさ、もっと怒れば良かったのに」
「だって……」
彰人と交際して半年。ずっと知らなかったが、私は二股されていた。さらに彰人にはもう一人の彼女の方が本命だったのだ。
二人で過ごしている時に、偶然彰人のLINEのポップアップ通知をみたことから二股が発覚し、私は彰人を問い詰めたが、彰人は悪びれた様子もなくそのまま荷物を残して出て行った。
そしてそれっきり連絡しても無視され、二度と彰人が戻ってくることはなかった。
「どうしようもないじゃん……人の気持ちなんて……どうやっても変えられない。変わらないもん」
「…………」
でもどこかでまた私の方が良かったといって彰人が帰ってくるような気がして、私は彰人の荷物がなかなか捨てられなかった。
それほど恋に溺れていた。
初めて会ったときからなぜだか惹かれて、彰人から付き合ってほしいと言われた時はこの人に会うために生まれてきたんだなんて、そんな、らしくないことを考えるくらい好きだった。
そんな私に訪れた突然の恋の別れは、もう二度と恋なんてできない、そう強く思うほどに私の心の真ん中はいまだにぽっかり穴があいたままだ。
「おまちどうさま」
純がテーブルに親子丼を二つ置いて麦茶を注ぎ入れる。
「冷めないうちに食えよ」
「うん……」
親子丼を一口くちに含むと美味しさが口内に広がって、何故だかころんと涙が転がった。
「……おいしい」
「良かった」
純はそう言うと、黙ってティッシュの箱を私の手元へ置いた。
私はティッシュで涙を拭いながら親子丼を黙々と食べていく。
「……ご馳走さまでした」
そう言い終わるとお腹は満たされたのに、すごく虚しくて悲しくて涙が止まらなくなる。
「……日香にはもっといい人がいる。ちゃんと日香を大事にしてくれる人」
「いい加減なこと言わないで……っ……」
「いい加減じゃないよ」
純はそう言うと、私をまっすぐに見つめた。
「俺は日香が好きだから」
(──え?)
一瞬、聞き間違えたのかと思ったが純の瞳は今までみたことないくらいに真剣だった。
私の涙はあっという間に止まり、こんどは心臓がとくとく駆け足になる。
「あ、の……」
どうしたらいいのかわからない私に純がバツの悪そうな顔をする。
「ごめん、言うつもりなかったのに。日香をこんな泣かせる奴いると思うと、なんか腹が立って……その、つい」
純はガシガシと柔らかい黒髪をかくと眉を下げた。
「受け取ってもらえない想いってわかってるからさっさと断ってくれていい」
そう、純はタイプじゃない。恋愛感情なんてない。
でもなぜだろう。なせだかわからないのに、断る言葉が出てこない。好きじゃないけど嫌じゃなくて、純の気持ちが心の穴の中にすっと入ってくる。
私は考えがまとまらない中、純を待たせるのも悪いと感じてゆっくりと口を開く。
「わかん、ない……」
「え?」
純が途端に怪訝な顔をする。
「えっと、それじゃあ俺もよくわかんないんだけど……?」
「だよね……でも他に言葉が見つからなくて」
「断るの遠慮してるとか?」
「違……っ、そのわかんないけど……嫌じゃないの」
「でも俺のこと好きじゃないだろ?」
好きじゃない?
ほんとに?
じゃあなんですぐに断らないの?
自問自答を繰り返しながら、ぐるぐる思考は巡るがやっぱり答えが見つからない。
「わかんない」
「まいったな……」
(どうしよう……)
私はせっかく想いを伝えてくれた純にもう少し誠実に返事ができないか思案する。
そして、私がふと窓辺に視線を移した時だった。
「あ、雪……」
その言葉に純も窓辺に視線を向けた。
「お、結構降ってんな……俺、コンビニで傘買ってくるわ」
「待って」
純が立ちあがろうとするのを見て、私は慌てて純を制止する。
「日香?」
「雪……止むまでここにいてもいい?」
「それはいいけど……いつ止むかわかんないけど?」
「その、純さえ良ければ……えっと暇、だし……」
「お、う」
「私の純への想いをその……ちゃんと頭で纏めてから話すから……」
「分かった、じゃあ……コーヒーでも淹れるか」
純はふっと笑うとそう言って席を立つ。
そして私は純の後ろ姿を見ながら、あることに気づく。
それは私がここにくるまで心の真ん中にぽっかり空いていた穴に膜が張っていること。
それはきっと──純の優しさのお陰だ。
優しさの膜に包まれたこの心は、雪が止む頃にはほんの少しだけ強くなって前を向ける、そんな気がした。
じゃあ、私の純への想いは──?
神様にそう聞かれてもきっとその答えは今夜中には出ないだろう。
けれど、今夜はクリスマスイブ。
サンタさんから私へのクリスマスプレゼントは、私のためにコーヒーを淹れてくれている目の前の彼なのかもしれない、なんて思った。
2024.12.24遊野煌 メリークリスマス🎄🎅
※フリー素材です。