扉を抜けると、二人を待っていたのはまるで別世界のような光景だった。先ほどまでの閉鎖的な空間とは一転、広がるのは薄暗い霧に包まれた森。見上げると月明かりが木々の隙間からわずかに差し込み、地面には濡れた苔が広がっている。森の奥から、時折鳥の鳴き声が聞こえ、不気味な静けさが辺りを支配していた。
「まるで夢の中みたいだな…」俊煕が呟いた。
彩菜は地面を見つめながら小さく頷く。「ここ、本当に現実なのかな…。でも、私たちが進まなきゃいけない場所なんだよね。」
そのとき、彩菜の胸に重い痛みが再び走った。赤いストラップがじわりと光を放ち、身体を蝕むような感覚が襲いかかる。膝をつき、地面に手をつけて荒い息を繰り返す。
「彩菜！無理をするな！」俊煕が慌てて彼女の肩を支える。
「大丈夫…大丈夫だから…」彩菜は震える声で答えた。だが、額には汗がにじみ、顔色は明らかに悪い。俊煕は苛立たしげに視線をストラップに向けた。
「この罰ってやつがどれだけきついものか…こいつをつけたままで、本当に進めるのかよ。」
彩菜はかすかに笑みを浮かべ、ふらつく足で立ち上がった。「進むしかないでしょ。止まったら終わりだもん。」
その言葉の強さに、俊煕はしばらく黙って彼女を見つめた。そして、肩を軽く叩くと小さく息を吐いた。「分かったよ。けど、無理をするな。少しでも休めそうならすぐに言え。」
「うん、ありがとう。」彩菜はそう答えたが、目の奥には揺るぎない決意が光っていた。
二人は森の中を進み始めた。足元に広がる苔は柔らかいが、滑りやすく、慎重に歩を進めなければならなかった。道がどこに続いているのか分からない不安が、二人の心を重くする。

森の謎
やがて、霧の奥に小さな建物が見えてきた。それは朽ち果てた木造の小屋だった。ドアには古びた鍵がかかっており、その上には奇妙な文字が刻まれていた。
「これ…何て書いてあるのかな？」彩菜が問いかける。
俊煕が文字を指でなぞりながら首をかしげる。「古い言葉みたいだな…。読めなくはないが、意味が曖昧だ。『すべては欺瞞から始まる』…か？」
「欺瞞…」彩菜は自分の赤いストラップを見つめた。俊煕が選んだ青いストラップも、その言葉を象徴しているように思える。
「試すしかないか。」俊煕は鍵穴に目をやり、懐から青いストラップを取り出した。「このストラップ、鍵代わりにならないか試してみよう。」
彼がストラップを鍵穴に近づけた瞬間、小屋全体が低くうなりを上げた。鍵穴が光を放ち、静かにドアが開いていく。
「成功したみたいだな。」俊煕が口元にわずかな笑みを浮かべた。
中に入ると、小屋の中は意外なほど整然としていた。中央には小さなテーブルと椅子が一つずつ置かれており、その上には一冊の古びた本があった。彩菜が本を手に取ると、表紙には「真実の記録」と書かれている。
「これが次のヒント…なのかな？」
彩菜が本を開こうとしたそのとき、背後から冷たい風が吹き込んできた。振り返ると、ドアがいつの間にか閉じており、小屋の中の空気が一気に重くなる。
「気をつけろ…何かがおかしい。」俊煕が身構える。
その瞬間、本の中から黒い煙が立ち上り、人型を成す。煙の目がぎらぎらと赤く光り、二人に向かって低い声で語りかけてきた。
「真実は甘くはない。その代償を知る覚悟はあるか？」
二人は視線を交わし、静かに頷いた。次の試練が、彼らをさらに追い詰めるものになることを感じながら…。