最初の議論が終わった後、部屋に響くスピーカーの音が全員を引き戻した。
「議論の結果は確認しました。次に進むためには、一人を『排除』してください。」
その一言が全員の心を凍らせた。排除とはどういう意味なのか、誰もが理解しているようで信じたくなかった。
颯介が声を上げる。「ちょっと待てよ!排除って、まさか…この中から誰かを選んで命を奪えって言うのか?」
義満の冷静な声が答える。「解釈は自由です。ただし、合意が成立しない場合、全員が失格となります。」
「全員が失格…?」俊煕は唇を噛みしめた。「つまり、誰かを選ばない限り全員がここで終わりってことか。」
部屋が再び静まり返る。彩菜は心臓が爆発しそうなほど早く鼓動しているのを感じながら、口を開いた。
「でも…どうして誰かを選ぶ必要があるの?全員で協力すれば解決できるんじゃない?」
香子が冷ややかに笑った。「理想論ね。誰が進んで排除されるっていうの?それとも、あなたが犠牲になる?」
彩菜は言葉を失った。沈黙が部屋を支配する中、俊煕が再び声を上げた。
「ルールに隙がないわけじゃない。義満は『解釈は自由』と言った。つまり、排除が必ずしも命を奪うことを意味するとは限らない。」
「どういうことだ?」颯介が目を細める。
「例えば、誰かが一時的にこの部屋を離れるとか。全員が満場一致で同意すれば、義満のルールを捻じ曲げることだってできるかもしれない。」
俊煕の提案は希望のように思えたが、香子が即座に反論した。「その解釈が正しい保証はどこにあるの?甘い考えで全員が失格になったらどうするの?」
議論が堂々巡りを始める中、彩菜は一つの言葉が心に浮かんだ。\u201cかばんには希望と期待をつめて。
母が昔くれた言葉を思い出し、彼女は勇気を振り絞って言った。
「私が一度、この部屋を出ます。その解釈が間違っていたとしても…それが唯一の方法なら試してみたい。」
全員の視線が彩菜に集中する。颯介が声を荒げた。「何言ってるんだ!そんな危険を冒す必要はない!」
「でも、誰かが動かなきゃ次に進めない。私にやらせて。」彩菜の声は震えていたが、目は真っ直ぐだった。
俊煕が短く息を吐いた。「賭けてみる価値はある。俺も行く。」
彩菜は驚いた顔で俊煕を見つめた。「どうして…?」
「理由なんてどうでもいい。お前一人でやらせるわけにはいかないだけだ。」俊煕はそれだけ言うと、彩菜に歩み寄った。
やがて全員がその提案に渋々ながら同意し、彩菜と俊煕は部屋の出口に向かった。扉の前で一瞬立ち止まり、彩菜は振り返った。
「戻ってくるから。必ず。」
颯介が無言でうなずき、扉が静かに閉じた。