春はあけぼの。
やうやう白くなりゆく山ぎは 少し明りて
紫だちたる雲の 細くたなびきたる──『枕草子』 清少納言
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年月は風のように去っていった。
移りゆく季節に乗って、人々は十人十色に変わっていく──私の世話をしていた看護士たちでさえ、次々と顔ぶれを変えていった。
ある者は産休を取り、ある者は勤務先を変え、またある者は相変わらず私のそばで働いていたが、結婚をしたり甥が生まれたりと……人生の変化を謳歌していた。
私だけが一人取り残され、空しい呼吸を繰り返している。
長い冬の果てに、初春のあたたかい太陽に照らされて発芽をはじめる種がある。
いつまでも蛹の中にうずくまっていた幼虫が眠りから覚め、羽化をはじめる季節がある。
そうだ……移りゆく四季は美しく、まるで光に透かしながらのぞく万華鏡のように、輝いて見えた。
私はといえば、依然としてベッドに横たわりながら、輝かしい外界をぼんやりと眺め続けているばかりだった。
私は傍観者で、唯一の変化らしい変化といえば、衰えてゆくばかりであったが──もう文句を言う気も起きなかった。
私の病室には一つ大きな白枠張りの窓があって、たいていは小さく開け放たれており、風や香り、光や闇を外から運んできた。
窓から差し込む白い日光を顔に受けるたびに、なぜ、と私は疑問に思う。
なぜだ、神よ。
私のようなものを、なぜ、光で照らすのだ、と。