トップス王国、王都モノグラム。
その町のシンボルともなっている王城にて、勇者パーティーは謁見の間にいる国王と会っていた。
「勇者ブロードとその仲間たちよ。魔王討伐の使命を果たし、世界を平和に導いたこと、実に見事である。ついてはそなたらに約束の褒美を贈呈しよう」
トップス王国を束ねるハイエンド王家の長、ジャカード・ハイエンド国王。
この国は冒険者の育成と援助に力を入れており、冒険者大国と呼ばれている。
そんな国でジャカード国王は、冒険者たちに対して魔王討伐の使命を与えた。
魔王を討伐し、世界を平和に導いた者たちに、可能な限りの褒美を授けると。
その褒美を賜りに、勇者ブロードたちは王城の謁見の間にやって来ていた。
そして各々が望む褒美を告げて、すべて受諾されると、続いて祝賀会について国王から提案される。
「魔王討伐の使命を果たした勇者とその一行たちの活躍を、ぜひ王都を挙げて祝わせてもらいたい。豪華な食事とパレードも用意させてもらう」
その提案にブロードたちは快く了承した。
それからほんの一週間で祝賀会の準備と告知を終えて、王都で魔王討伐を祝う催しが開かれた。
ブロードたちはパレードの主役として王都を回り、町の人たちから多くの称賛の言葉をかけてもらう。
そしてパレードの後は、王城のパーティー会場で王侯貴族や上級冒険者たちと談笑を楽しみながら、用意された豪華な食事に舌鼓を打ったのだった。
「取りすぎじゃないかいガーゼ。少しは遠慮したらどうかな」
「私たちは世界を平和にした勇者パーティー。だから遠慮する必要はない。って王様が言ってたから」
「にしてもそれは欲張りすぎだよ」
聖女ガーゼが小さな体に見合わない山盛りの皿を持って来て、ブロードが呆れた笑みをこぼす。
その光景を同じ席の賢者ビエラが微笑ましそうに眺めており、寡黙な聖騎士ラッセルは姿勢よく静かに食事を楽しんでいた。
「食べ切れなくなっても知らないよ。僕は手伝わないからね」
「大丈夫。最後はラッセルが全部食べてくれるから」
「ラッセルに押しつけるなよ……」
そんなやり取りをしていると、不意にその席に四人の集団が近づいてきた。
そのうちの一人がブロードに声をかける。
「よお、ブロード」
「んっ?」
声をかけてきたのは赤髪短髪の青年だった。
背中に鋼の大剣を背負い、赤いコートを靡かせながら三人の仲間を引き連れている。
ツンツンに尖らせた赤毛と八重歯が特に目を引き、そんな見覚えのある人物を前にしてブロードは少し驚きつつ返した。
「ツイードか。君たちも王都に戻ってきていたんだね」
「あったりめえだろうが。ライバルのてめえらに先を越されたんだからよ。文句の一つも言わせやがれ」
ライバル。
そう、彼らは勇者ブロードたちと同じく、魔王討伐を志していた冒険者パーティーだ。
【剣聖】の天職を授かったツイード・ナード率いる一線級のパーティー。
世間ではどちらが先に魔王討伐を果たすか議論されるほど実力は拮抗していたが、結果としては勇者ブロードが率いる勇者パーティーに軍配が上がった。
その文句を言いに来たと剣聖ツイードは宣言したが、即座に肩をすくめていたずらっぽい笑みを浮かべる。
「ってのは冗談で、今日は素直にお前たちのことを褒めに来てやったんだよ。やるじゃねえかよ勇者パーティー」
それを受けて、ブロードたちは意外そうに目を丸くする。
今まではライバルとして競い合い、時に激しいぶつかり合いもした。
目を合わせれば憎まれ口ばかりを叩かれていたけれど、よもやあの負けず嫌いを体現したようなツイードから称賛の言葉を送られるとは。
それほどまでに魔王討伐の成果が大きく、世界を激震させたことなのだとブロードは改めて実感する。
それから勇者パーティーのメンバーたちは、ツイードのパーティーのメンバーたちと談笑を始めた。
その様子を傍らから眺めながら、ブロードとツイードも二人で会話をする。
「で、いったいどんな卑怯な手を使って、あのおっかねえ魔王を倒したっていうんだよ」
「別に卑怯な手なんか使ってないさ。心強い仲間たちのおかげで、僕は魔王を打ち倒すことができたんだよ」
「チッ、相変わらずかっこいいことしか言わねえな、このかっこつけ勇者が」
ツイードは手に持っていたグラスを雑に呷り、豪快な息を吐き出す。
相変わらず仕草が荒々しいなと、ブロードが内心で苦笑を漏らしていると、続けてツイードが疑惑のこもった視線を向けてきた。
「まあ、お前んとこの連中が粒揃いってのは認めてやるよ。だがな、それだけじゃ魔王ステインを倒せた理由にはならねえだろ。歴代の勇者たちを軒並み返り討ちにした化け物なんだぞ」
と疑問をぶつけられたものの、実際に魔王を打ち倒すことができたのは心強い仲間たちがいたおかげが一番大きいと考えている。
特に皆の目に映りにくい道具師フェルトの活躍が、魔王討伐最大の要因になったとブロードは思っていた。
フェルトが作った剣がなければ、ブロードは魔王の分厚い魔装を斬り裂くことはできていなかった。
フェルトが作った鎧がなければ、ラッセルは魔王の激しい猛攻に耐えることはできていなかった。
フェルトが作った杖がなければ、ビエラはすぐに魔力枯渇を起こして高位魔法を連発できていなかった。
フェルトが作った傷薬がなければ、ガーゼの治癒魔法だけで仲間たちの回復を賄うことはできていなかった。
ありふれた生産職の道具師だからと、今まで目を向けられる機会がほとんどなく、そのせいで彼の活躍に気付かない人たちは大勢いる。
ツイードも勇者に気を取られているその一人で、そうだとわかったブロードはフェルトの大業について語ってやろうと思った。
しかし寸前で声を引っ込める。