机と椅子が雑然と並んでいる。塗装が浮いて錆が見えるものが多く、月日の経過を物語っていた。
だが在りし日の記憶を重ねたのだろう、全員の表情が和む。
「三年三組。おれたちの教室だな」
「懐かしい。でも少し寂しいかも」と二葉は眉を寄せた。
「歳取ったなあ、って感じるわ。わたしたち三十路になったんだもんね」三保は溜息を漏らす。
「中学生の時は三十歳なんて年寄りだと思っていた」大五は軽く肩をすくめた。
「でも廃墟にはなってないよ、わたしたちは。そうでしょ」
一来の言に、乾いた笑いが静かな教室に吸い込まれていった。
「ねえ、あれなんだろ」
三保が黒板に書かれているなにかを見つけた。
「『おかえりなさい』って読めるね。へんなの。『卒業おめでとう』ならわかるけど」
十年前、最後にこの教室を卒業した生徒に向けて書かれたものだとしたら、奇妙だ。
「人生巻き戻せたらいいのにってやつもいるけどね」
二葉が一来にちらと視線を向けた。
「……わたしに言ってるんじゃないよね」
「さあ、自覚あるのかしら」
「二葉、あんただれに向かって」
バシンと大きな音がした。全員が音のした方を振り返った。教室の戸が勝手に閉まったのだ。
「な、なに?」四季が目をこする。
「やだ、こわい」三保は大五の腕にしがみつく。
「建物が傾いてるだけだよ。それで戸が勝手に……」
大五が三保の手の甲を優しく撫でながら戸に近づこうとしたが、三保はこわいのか、するりと手を離した。少々残念そうな顔で大五は一人で戸を開けに向かう。
だがガタガタとむなしい音を立てるだけで開く気配はなかった。
「歪んでるのかなあ」
「そっちから開けられるんじゃない?」
自分では動かずにもう一枚の引き戸を指す三保に従ってみたものの、大五は戸を開けることはできなかった。
「おかしいな。鍵でもかかっているみたいだ」
「さすが廃墟ね。ガタがきてるのよ。でもあっちがあるし」
一来は、やはり自分では動かずに顎で示した。教室には前後に二つ出入り口がある。
大五は小さく舌打ちしてそちらも確認に行った。だがやはり開かなかった。
「しょうがねえな。はずすか」
「さすが男子、頼りになるわ~」
三保が声援を送る。だが結果ははかばかしくなかった。
「なにやってんのよ。どきなさい」
大五に代わって一来がやってみたが、びくとも動かない。
「おかしい……まるで接着されてるみたい」
「あんたさあ」腕組みをした大五が一来に冷たい視線を注いだ。「ずいぶん偉そうじゃないか。いまだに女王様気取りなのかよ。もう中坊じゃないんだぞ、おれたち」
「な、なによ。そんなつもりはないわよ。それより一大事じゃない。なんとかしないと」
そのとき、教室の一角に光が灯った。黒板の横に設置されていたモニターに突然電源が入ったのだ。
『こんばんわ』
だが在りし日の記憶を重ねたのだろう、全員の表情が和む。
「三年三組。おれたちの教室だな」
「懐かしい。でも少し寂しいかも」と二葉は眉を寄せた。
「歳取ったなあ、って感じるわ。わたしたち三十路になったんだもんね」三保は溜息を漏らす。
「中学生の時は三十歳なんて年寄りだと思っていた」大五は軽く肩をすくめた。
「でも廃墟にはなってないよ、わたしたちは。そうでしょ」
一来の言に、乾いた笑いが静かな教室に吸い込まれていった。
「ねえ、あれなんだろ」
三保が黒板に書かれているなにかを見つけた。
「『おかえりなさい』って読めるね。へんなの。『卒業おめでとう』ならわかるけど」
十年前、最後にこの教室を卒業した生徒に向けて書かれたものだとしたら、奇妙だ。
「人生巻き戻せたらいいのにってやつもいるけどね」
二葉が一来にちらと視線を向けた。
「……わたしに言ってるんじゃないよね」
「さあ、自覚あるのかしら」
「二葉、あんただれに向かって」
バシンと大きな音がした。全員が音のした方を振り返った。教室の戸が勝手に閉まったのだ。
「な、なに?」四季が目をこする。
「やだ、こわい」三保は大五の腕にしがみつく。
「建物が傾いてるだけだよ。それで戸が勝手に……」
大五が三保の手の甲を優しく撫でながら戸に近づこうとしたが、三保はこわいのか、するりと手を離した。少々残念そうな顔で大五は一人で戸を開けに向かう。
だがガタガタとむなしい音を立てるだけで開く気配はなかった。
「歪んでるのかなあ」
「そっちから開けられるんじゃない?」
自分では動かずにもう一枚の引き戸を指す三保に従ってみたものの、大五は戸を開けることはできなかった。
「おかしいな。鍵でもかかっているみたいだ」
「さすが廃墟ね。ガタがきてるのよ。でもあっちがあるし」
一来は、やはり自分では動かずに顎で示した。教室には前後に二つ出入り口がある。
大五は小さく舌打ちしてそちらも確認に行った。だがやはり開かなかった。
「しょうがねえな。はずすか」
「さすが男子、頼りになるわ~」
三保が声援を送る。だが結果ははかばかしくなかった。
「なにやってんのよ。どきなさい」
大五に代わって一来がやってみたが、びくとも動かない。
「おかしい……まるで接着されてるみたい」
「あんたさあ」腕組みをした大五が一来に冷たい視線を注いだ。「ずいぶん偉そうじゃないか。いまだに女王様気取りなのかよ。もう中坊じゃないんだぞ、おれたち」
「な、なによ。そんなつもりはないわよ。それより一大事じゃない。なんとかしないと」
そのとき、教室の一角に光が灯った。黒板の横に設置されていたモニターに突然電源が入ったのだ。
『こんばんわ』