夜空にぽつんと浮かぶ丸い月が校舎を見上げる五人の顔を白く照らしだしていた。
「だれもいないお。しょれともこわいの?」
アルコールでろれつの回らない四季が校内に踏み出すと、大五はからからと笑い出した。
「こわいわけないだろ。おれたちの中学じゃないか」
「ちょ、ちょっと。ほんとに中に入る気? だれかに見つかったら怒られるわよ」
人一倍オシャレなかっこうをした二葉は渋りだした。
「廃校になって十年だぜ。だれもいないよ」
中学の同窓会があった。思い出話に花を咲かせているうちに懐かしの校舎を見にいこうと誰かが言い出した。
卒業して数年後に廃校になった母校。いったいどんな姿になっているのか、ちょっとした好奇心と酔い覚ましにちょうどいい距離となんとなく別れがたい雰囲気が当時仲良しだった五人の足を電車の駅とは反対方向に向かわせたのだ。
「うわ、すっかり廃墟になってるじゃない」
割れた窓ガラスを踏んだ二葉は、高級な靴に傷がついたらたまらないといって顔をしかめた。
「夜のせいか、雰囲気あるわねえ。なんで立て壊さないのかしら」
三保の問いに一来がバカにしたように答えた。
「そんなの決まってるでしょ。自治体にお金がないのよ」
「あ、そうか。……きゃッ」
足下をなにかが横切った。
「なに、いまの」
「ネコかハクビシンかな。野生動物が棲みついてるんだ。三保ちゃん、こわがらなくてもおれがついてるから」
「こういうとき、男の人がいてくれて助かる。大五くん、やっぱ頼りになるね」
大五の腕を取る三保に、一来は舌打ちした。
「ちょっと。大五は来月結婚するんでしょ。同窓会で焼けぼっくいに火がつくとか、ベタはやめてよね」
「そんなんじゃ……。第一、つきあってなかったし」
「いいわよ、嘘は。大五も脇が甘すぎ。婚約者に逃げられても知らないよ」
大五はひょこりと肩をすくめる。
三保は唇を尖らせて、しかし大五のそばからは離れなかった。
階段の隅にたまった黒い土は舞い込んだ枯葉が朽ちたものだろうか。校舎はひどく汚れていた。全員の足は最上階の一番角の教室に向かう。
「しゃん年しゃん組、だね」
ほろ酔いの四季は勢いよく、がらりと戸を開けた。