「どーしてメディエは歴史上の記憶や経験(そんなもの)を集めているの?」

「メディエは文明の情報と歴史の分岐点を集めている。それがこの今の常識と言える『世界を変えるお宝(パワー)』ってやつさ」
「歴史の分岐点? 世界を変える?」

「その辺りがキナ臭い」
「さっきの奴らも言ってただろう? 旧政府がこのクエストを牛耳っていて、その利用者を使って『何か』を探し集めているらしい、って噂がある」

「それにシーカーに紛れた反主流派(プロテスト)の手先がクエストの邪魔をしたり、旧政府が探している『何か』ってヤツの横取りを企んでるとかなんとか……」
「レジスタンスと接触した者は少ないし、顔なども不明とされている」

「旧政府ねぇ……」

「旧政府=旧国家なのは言わずとも、だと思うが……」
「高校生なら歴史で習ってると思うけど、砂漠化、温暖化、森林破壊、海洋汚染、大気汚染、生物多様性危機などから、どこの国でも居住できる地域は激減し、争いが起き、旧国家の勢力と制度を維持できなくなった」
「6度目の大量絶滅期ってやつだ」

「わたしたちが今いるエリア24区(チバラキ)と旧北海道地域にあるエリア道京(どうきょう)とエリア酪勝(らくしょう)の2箇所、そしてエリア上杉(エチゴン)の計4箇所しか旧日本の国土で居住エリアは存在してないし、現在では世界で幾つのエリアが存在しているかは不明って習ったわ」

「各エリア独自のコミュニティで社会を構成していて、今のところ旧国家の国境を越えるような他のエリアとの交易はクエスト関連以外は行われていない、とされてる」
「エリア=自治体=現在の新しい国家、とも言うべき版図」

旧政府(現コミュニティ)は『昔の国家を再建』したがっているって聞いたことがある」
「違うな『過去の世界地図』を、だ」
「アメリカ主導のご都合主義の世界構図、か」

「昔のような権力と勢力図を過去の文明と共に取り戻したい旧政府側と、文明よりも地球環境保護を訴える反主流派反対勢力が小競り合いしているらしいが、そんなのとこのクエストがどう絡んでいるのかは俺たちも分からねえ」
「地球環境保護なんて建前の正義を振りかざしているだけで、レジスタンスだって自分たちの都合のいい歴史に作り替えたいだけ、旧国家の思い通りにさせたくないだけって話もあるけど……」

「レジスタンスが歴史云々の『何か』を奪いにシーカーに近づいて来る……ふむふむ。それは確かなのね……」

「入場料を払わねえで、成功すりゃ金くれるってんだから、俺たちにはどうでも良いけど、な」
「入場料は払ってるじゃねーか、シーカーの命を懸けて……」

「ま、世界がどーのこーのって言うのは、俺たちには関係が無さそうだ、ね、ナミちゃん」
「うん……でも『何か』がなにか、早く分かるといいね」

「なにか分らないが、強硬手段で奪いに来るって噂もあるから一応気を付けておいた方がいいぞ」
「おじさんたちご親切にどーもありがとうございました」

 ナミは丁寧に頭を下げた。もう飽きた、興味がないと言わんばかりにデンちゃんをおじさん2人から引き離しにかかる。

「ね、デンちゃん、どんなクエストがあるか見て行こうよ」
「やっぱりナミちゃん、ついて来る気でしょ」

(当たり前でしょ! 『やり放題』なんてっ!!)
 ナミはデンちゃんの言葉は聞き流すようにして、壁に貼られてあるクエストを斜め読みして物色に夢中の振りをする。

「さっきのみたいに長いのはヤーよ?!」
「さっきのって?」

「クレオパトラがどーのこーのってやつ」
「そうだね、いきなり『マイグレ』したくないしね」

「ところでさっきの話で、わたしたちが住んでるエリアは『24区』と書いて『チバラキ』って読むのはどーして?」

 そう大して疑問に思って無さそうながらに会話の呼び水だけは忘れない。徐に壁に貼ってある1枚を剥がしてタイトル以外の部分を読み込む。

「あれ? ナミちゃん知らなかったの? 昔チバケンとイバラキケンってとこがあって、どっちも田舎っぺで東京に憧れてたみたいだから、東京は無くなっちゃったけど24番目の区にしてあげたら供養になるだろうって……」
「へぇ……そなんだ」

 手に取ったクエストだって興味があったように思えない。質問した答えにも興味はなさそうだ。それほどポップな態度で振舞っている。
 何故ならその手に取ったクエストのタイトルは『レベル1 江川空白の1日』とある。

「ねぇデンちゃん、コレなんか⦅デートに⦆いいんじゃない?」