「ナミちゃん、ひょっとして俺と一緒にクエストついて来ようとしてる? それ、その紙、パーティ登録でしょ」
帽子の3人がメディエを出るのを見届けてデンちゃんがナミに話しかける。ナミは照れて俯く。
「どーしよっか……エヘヘヘ」
愛想笑いが『ダメ?』と聞いているのがアリアリだ。そんな恋愛仕様の空気を全く読めない筋肉質な中年男性はここで役に立つ、何事もなかったように話出す。
「登録したら次は*インテミ⦅*=intermediary 仲介者⦆のところに行くのが順序だ」
「分からないことがあれば何でも聞いてくれ。俺たちはほぼ毎日ここに居るからよ」
「おっと、俺の名前は案中 途ってんだよろしく」
「俺は現 実だ」
筋肉質の2人はとても親切だった。2人への第一印象を改めたナミは人懐っこく聞く。
「どーしましょ……おじさん、念のため教えてください。メディエについて」
「お嬢ちゃん、任せときな」
「ここメディエはクエストをあっせんする文明開発側が運営する場所で、俺たちはシーカー。クエストにはレベルが1~5とMAXの6段階あって数字が大きい方が難易度も高く、報酬も高い、ここまではいいかい?」
「うん、おじさん大丈夫。クエストってどんなのがあるの?」
デンちゃんからは二度目の『おじさん』で、少し気落ちしてるようにも見えた。ナミの悪意のなさが余計に辛い。しかし『シーカーだ』といいつつ、新人たちに解説を施す『初心者ガイド』と化した2人の誇りが、気持ちが萎えることを許さなかった。
「基本的には『歴史上の事件』に対するミッションで、クエストを請け負ったシーカーたちが挑むって訳だ。基本的には『ギブアップ』『ライフエンド』『タイムアップ』『クリア』でクエスト終了」
「ほとんど見たことないけど『移住⦅=migration⦆』、『追放⦅=expulsion⦆』なんてのもあるんだ」
「ライフエンドって、つまりは死んじゃうってこと?」
「そうだ」
「まぁ、シーカーが死んだところでその歴史に名が残るわけでもない」
「わたしが今の教科書開いて、知ってる人が載ってたら怖いわね、デンちゃん」
「そんな簡単なはずがない、まず、クエスト内でのタブーがある。それはシーカーによる『殺し』と『セックス』だ。これらは細かな規定と条件があって、厳しく審査される」
その単語に負けて言葉が詰まるようではまだまだ子供だ。2人の空気を察した実は、相方の言葉の責を取るように間を繋ぐ。
「それらはパラドックスの引き金になるからだ」
「タブーを犯せば追放って訳ですか」
「いや違う、と思う。マイグレやスパルは現実との隔離であって、それが原因でスパルされるのではない」
「シーカーは過去の歴史ではよほどのことがない限り人を殺せない、さっきのパラドックスに由来しているわけだな」
「しかしそれは絶対ではない。人体の矛盾が起きたり不死やゾンビが在るような不思議が起きないようになっている」
「例えばシーカーの銃弾は何故か致命傷には至らないらしい、けれど相手の弾丸はシーカーを殺せる、そんな不公平が存在している」
「こっちの方のタマも当たんねーから、好き放題だぜ」
「何が『好き放題』だっ! 言うだけイタ男だっつーに」
下ネタのジェスチャーにナミがデンちゃんの顔を強く睨む。なるべく早く次の話題に移りたいデンちゃんの額に汗が滲んだ。
「じゃ、じゃー移住? 追放? って」
「クエストにはそれぞれ定められた期間があって、例えば『国外クエスト レベル4 クレオパトラの鼻』っていうクエストがある」
「……『クレオパトラの鼻がもう少し低かったら、世界の歴史も変わっていたであろう』ってなんてベタなクエスト……」
「この期間は『200年』の猶予が設定されている」
「200年? 1つのクエストで?」
「バットで殴ってクレオパトラの鼻を低くしようとした奴は殺されライフエンドでクエスト終了」
「レベル4がそんな瞬殺で完了するはずないのに、バカな奴だったな」
「だからってほら女好って覚えてんだろ?!」
「居た居た、俺たちと同期で女好きだが不細工でちっともモテない男でな。そいつもこのクエスト挑んだんだ」
「そうだな、もう30年近くになるが帰って来てない」
「どーして?」
「アイツの作戦は『クレオパトラの父親が鼻の低い男ならいいんだ』ってことでクレオパトラが生まれる前からクエストに入っている」
「シーカーの子は産まれない、クエストのタブーすら知らないバカでさ」
「もうクリアするためには『移住』するしかない、ってもう本末転倒さ」
「もうアイツ、『マイグレ』認定されてるだろうな」
「『マイグレ』認定されるとクエストの一時退場と再入場ができなくなる」
「因みに『マイグレ』は今までの記憶、それにクエスト中に得た地位や財産などを持ったまま向こうで暮らせるが、『スパル』は記憶以外の全てをひん剥かれてランダムの時代に放り出される、身分の証明も何も無しだって噂だ」
「何をしたらスパルされるのか、は俺たちも詳しくは分からない」
「スパルされたシーカーっていたっけか?」
「……俺の記憶にはなさそうな……」
「……あッ、いや、1人だけ聞いたことがある」
「ほれ、数年前のスペシャルレア……」
「はいはい、レベルMAXの……」
「色んな噂もあるが、シーカーが1人行方不明になってな……」
「騒ぎになったのは一時だけで」
「スパルってことで片付けられたんだ……」
クエストにもまだ出たことのない2人には、なんだか身近ではない遠い話に聞こえる。もっとすぐ役立ちそうな話が聞きたい。
「初心者が注意しなきゃいけない話はないかしら?」
「密輸や時代法への違反なんか、かなり厳しい。『当事国における重大事件を引き起こす事』『むやみに建造物や自然などを壊さない事』『最新技術や古代品の流出入』などのことだな」
「この時代から歴史上のクエストに入るにあたって最新科学やその存在などを規制した時代法ってのが厳定されている」
「譲渡、手引き、貸与など使用の許可が必要となる。しかしクエスト持ち込み申請が通っていれば、例えば飛行機に液体や刃物なども持ち込めるようクエスト仕様の待遇になる。クエスト内容と審査によってそれらは変わるがな」
「そしてメディエはクエストの労働報酬としてシーカーに金をくれるが、シーカーはクエストで得た情報や経験・記憶などを全てメディエに支払う義務がある」
帽子の3人がメディエを出るのを見届けてデンちゃんがナミに話しかける。ナミは照れて俯く。
「どーしよっか……エヘヘヘ」
愛想笑いが『ダメ?』と聞いているのがアリアリだ。そんな恋愛仕様の空気を全く読めない筋肉質な中年男性はここで役に立つ、何事もなかったように話出す。
「登録したら次は*インテミ⦅*=intermediary 仲介者⦆のところに行くのが順序だ」
「分からないことがあれば何でも聞いてくれ。俺たちはほぼ毎日ここに居るからよ」
「おっと、俺の名前は案中 途ってんだよろしく」
「俺は現 実だ」
筋肉質の2人はとても親切だった。2人への第一印象を改めたナミは人懐っこく聞く。
「どーしましょ……おじさん、念のため教えてください。メディエについて」
「お嬢ちゃん、任せときな」
「ここメディエはクエストをあっせんする文明開発側が運営する場所で、俺たちはシーカー。クエストにはレベルが1~5とMAXの6段階あって数字が大きい方が難易度も高く、報酬も高い、ここまではいいかい?」
「うん、おじさん大丈夫。クエストってどんなのがあるの?」
デンちゃんからは二度目の『おじさん』で、少し気落ちしてるようにも見えた。ナミの悪意のなさが余計に辛い。しかし『シーカーだ』といいつつ、新人たちに解説を施す『初心者ガイド』と化した2人の誇りが、気持ちが萎えることを許さなかった。
「基本的には『歴史上の事件』に対するミッションで、クエストを請け負ったシーカーたちが挑むって訳だ。基本的には『ギブアップ』『ライフエンド』『タイムアップ』『クリア』でクエスト終了」
「ほとんど見たことないけど『移住⦅=migration⦆』、『追放⦅=expulsion⦆』なんてのもあるんだ」
「ライフエンドって、つまりは死んじゃうってこと?」
「そうだ」
「まぁ、シーカーが死んだところでその歴史に名が残るわけでもない」
「わたしが今の教科書開いて、知ってる人が載ってたら怖いわね、デンちゃん」
「そんな簡単なはずがない、まず、クエスト内でのタブーがある。それはシーカーによる『殺し』と『セックス』だ。これらは細かな規定と条件があって、厳しく審査される」
その単語に負けて言葉が詰まるようではまだまだ子供だ。2人の空気を察した実は、相方の言葉の責を取るように間を繋ぐ。
「それらはパラドックスの引き金になるからだ」
「タブーを犯せば追放って訳ですか」
「いや違う、と思う。マイグレやスパルは現実との隔離であって、それが原因でスパルされるのではない」
「シーカーは過去の歴史ではよほどのことがない限り人を殺せない、さっきのパラドックスに由来しているわけだな」
「しかしそれは絶対ではない。人体の矛盾が起きたり不死やゾンビが在るような不思議が起きないようになっている」
「例えばシーカーの銃弾は何故か致命傷には至らないらしい、けれど相手の弾丸はシーカーを殺せる、そんな不公平が存在している」
「こっちの方のタマも当たんねーから、好き放題だぜ」
「何が『好き放題』だっ! 言うだけイタ男だっつーに」
下ネタのジェスチャーにナミがデンちゃんの顔を強く睨む。なるべく早く次の話題に移りたいデンちゃんの額に汗が滲んだ。
「じゃ、じゃー移住? 追放? って」
「クエストにはそれぞれ定められた期間があって、例えば『国外クエスト レベル4 クレオパトラの鼻』っていうクエストがある」
「……『クレオパトラの鼻がもう少し低かったら、世界の歴史も変わっていたであろう』ってなんてベタなクエスト……」
「この期間は『200年』の猶予が設定されている」
「200年? 1つのクエストで?」
「バットで殴ってクレオパトラの鼻を低くしようとした奴は殺されライフエンドでクエスト終了」
「レベル4がそんな瞬殺で完了するはずないのに、バカな奴だったな」
「だからってほら女好って覚えてんだろ?!」
「居た居た、俺たちと同期で女好きだが不細工でちっともモテない男でな。そいつもこのクエスト挑んだんだ」
「そうだな、もう30年近くになるが帰って来てない」
「どーして?」
「アイツの作戦は『クレオパトラの父親が鼻の低い男ならいいんだ』ってことでクレオパトラが生まれる前からクエストに入っている」
「シーカーの子は産まれない、クエストのタブーすら知らないバカでさ」
「もうクリアするためには『移住』するしかない、ってもう本末転倒さ」
「もうアイツ、『マイグレ』認定されてるだろうな」
「『マイグレ』認定されるとクエストの一時退場と再入場ができなくなる」
「因みに『マイグレ』は今までの記憶、それにクエスト中に得た地位や財産などを持ったまま向こうで暮らせるが、『スパル』は記憶以外の全てをひん剥かれてランダムの時代に放り出される、身分の証明も何も無しだって噂だ」
「何をしたらスパルされるのか、は俺たちも詳しくは分からない」
「スパルされたシーカーっていたっけか?」
「……俺の記憶にはなさそうな……」
「……あッ、いや、1人だけ聞いたことがある」
「ほれ、数年前のスペシャルレア……」
「はいはい、レベルMAXの……」
「色んな噂もあるが、シーカーが1人行方不明になってな……」
「騒ぎになったのは一時だけで」
「スパルってことで片付けられたんだ……」
クエストにもまだ出たことのない2人には、なんだか身近ではない遠い話に聞こえる。もっとすぐ役立ちそうな話が聞きたい。
「初心者が注意しなきゃいけない話はないかしら?」
「密輸や時代法への違反なんか、かなり厳しい。『当事国における重大事件を引き起こす事』『むやみに建造物や自然などを壊さない事』『最新技術や古代品の流出入』などのことだな」
「この時代から歴史上のクエストに入るにあたって最新科学やその存在などを規制した時代法ってのが厳定されている」
「譲渡、手引き、貸与など使用の許可が必要となる。しかしクエスト持ち込み申請が通っていれば、例えば飛行機に液体や刃物なども持ち込めるようクエスト仕様の待遇になる。クエスト内容と審査によってそれらは変わるがな」
「そしてメディエはクエストの労働報酬としてシーカーに金をくれるが、シーカーはクエストで得た情報や経験・記憶などを全てメディエに支払う義務がある」