「デンちゃ~ん、今からメディエ⦅* mediation あっせん所⦆に行くんでしょ? いよいよメディエデビューね?!」
「ナミちゃん、俺も今日から成人だかんね」
デンちゃんと呼ばれた男が笑顔を向けたのなら、ナミの方はわざとその視線を避けた。そしてお伺いを立てるように何もない方に向かって言葉を発する。自分の指と指の先とを捏ねくり合せる仕草、それを見つめる表情が可愛らしい。
そこには制服が眩しい女子高校生の姿がある。
「どーしよ……わたしも行きたいなぁ~」
言い終わって待つことなく指先から目線を変えたときにはもう、デンちゃんの明るい声が天から降ってきた。真っ白のスニーカーがデンちゃんの気持ちを映し出しているようだ。
「うん、じゃあ一緒に行こう」
その言葉にナミは表情を明るくする。それから考えるに『ダメ』と言われる方を想定していたことが伺える。淡い期待の方が叶って、少女の笑顔は満開となる。今度はそれを受けて、デンちゃんの方が眩しそうに直視を避けた。
デンちゃんの学生服姿は、町並みよりどこか古臭さが漂う。
「どーしよ?! 制服じゃまずいよね?!」
「どっかで着替えて行こう」
◇◆◇◆
ナミの童顔を隠すため、何も飾りもない無地でシンプルなマスカレードマスクを当てる。大人っぽく見せるためにルージュは華やかに。制服を脱ぎ捨ててナミが選んだのは上下セットの作業着姿。インナーとハイカットの靴が赤色で揃えてある。
しかしもってセクシーさの欠片もないコーデは、艶と背徳感を秘めたマスカレードマスクとのギャップのナンセンスが惹き付ける。
彼女は万代 奈御子、新体操のジュニアチャンピオンで精密技術を誇る町工場の一人娘。
デンちゃんと呼ばれた男は安川 伝記、家は華道の家元。日本文化に育ち、自身は十手術を習い古風な家柄の反面、機械・ロボット工学好きなメカ・オタクでもある。
ナミと色違いのマスカレードマスクをつけている。
2人は『ウェルカム』と書かれた看板の横の階段を地下へと降りていく。下っていく階段の両脇には職安の求人みたいな紙が幾つも貼られている。扉を開けると広い空間に狭々と机と椅子が並んでいて老若男女、いや中年男が多いか……散乱している。
入口からみて左右に大きな掲示板があってどちらも乱雑に人だかりができている。
デンちゃんは先ず、正面のガラス張りの受付へと向かった。そちらは空いている。
「初めてなんで、登録お願いしたいんスけど……」
その声に左右の掲示板の塊が一斉にこっちを見たようにナミは感じた。電車で痴漢に触られたときのように背筋が伸びてゾワゾワした。
「こちらの紙に……太枠を記入して頂いて……ここに書いてある、該当する身分証明書と……登録料はあちらで印紙を買って貼ってください」
ガラスの向こうからはおばちゃんと思われる事務的な抑揚のない音声が響いていた。
ナミは受付脇の幾つかに分れたボックスの中から一つ選んで紙を1枚……おや? 1枚……あれ? 取れなくて……魅惑的な唇で指を湿らせるとやっと1枚用紙を取ることに成功した。
「ありがとう。じゃ分かんないとこあったら教えてね、お姉さん」
『お姉さん』というワードと少し甘えた声、そして小さく手を振るデンちゃんを見て形相が一気に変わったのはナミ。
「デンちゃん、デレデレすなっ!」
「ナミちゃん、俺も今日から成人だかんね」
デンちゃんと呼ばれた男が笑顔を向けたのなら、ナミの方はわざとその視線を避けた。そしてお伺いを立てるように何もない方に向かって言葉を発する。自分の指と指の先とを捏ねくり合せる仕草、それを見つめる表情が可愛らしい。
そこには制服が眩しい女子高校生の姿がある。
「どーしよ……わたしも行きたいなぁ~」
言い終わって待つことなく指先から目線を変えたときにはもう、デンちゃんの明るい声が天から降ってきた。真っ白のスニーカーがデンちゃんの気持ちを映し出しているようだ。
「うん、じゃあ一緒に行こう」
その言葉にナミは表情を明るくする。それから考えるに『ダメ』と言われる方を想定していたことが伺える。淡い期待の方が叶って、少女の笑顔は満開となる。今度はそれを受けて、デンちゃんの方が眩しそうに直視を避けた。
デンちゃんの学生服姿は、町並みよりどこか古臭さが漂う。
「どーしよ?! 制服じゃまずいよね?!」
「どっかで着替えて行こう」
◇◆◇◆
ナミの童顔を隠すため、何も飾りもない無地でシンプルなマスカレードマスクを当てる。大人っぽく見せるためにルージュは華やかに。制服を脱ぎ捨ててナミが選んだのは上下セットの作業着姿。インナーとハイカットの靴が赤色で揃えてある。
しかしもってセクシーさの欠片もないコーデは、艶と背徳感を秘めたマスカレードマスクとのギャップのナンセンスが惹き付ける。
彼女は万代 奈御子、新体操のジュニアチャンピオンで精密技術を誇る町工場の一人娘。
デンちゃんと呼ばれた男は安川 伝記、家は華道の家元。日本文化に育ち、自身は十手術を習い古風な家柄の反面、機械・ロボット工学好きなメカ・オタクでもある。
ナミと色違いのマスカレードマスクをつけている。
2人は『ウェルカム』と書かれた看板の横の階段を地下へと降りていく。下っていく階段の両脇には職安の求人みたいな紙が幾つも貼られている。扉を開けると広い空間に狭々と机と椅子が並んでいて老若男女、いや中年男が多いか……散乱している。
入口からみて左右に大きな掲示板があってどちらも乱雑に人だかりができている。
デンちゃんは先ず、正面のガラス張りの受付へと向かった。そちらは空いている。
「初めてなんで、登録お願いしたいんスけど……」
その声に左右の掲示板の塊が一斉にこっちを見たようにナミは感じた。電車で痴漢に触られたときのように背筋が伸びてゾワゾワした。
「こちらの紙に……太枠を記入して頂いて……ここに書いてある、該当する身分証明書と……登録料はあちらで印紙を買って貼ってください」
ガラスの向こうからはおばちゃんと思われる事務的な抑揚のない音声が響いていた。
ナミは受付脇の幾つかに分れたボックスの中から一つ選んで紙を1枚……おや? 1枚……あれ? 取れなくて……魅惑的な唇で指を湿らせるとやっと1枚用紙を取ることに成功した。
「ありがとう。じゃ分かんないとこあったら教えてね、お姉さん」
『お姉さん』というワードと少し甘えた声、そして小さく手を振るデンちゃんを見て形相が一気に変わったのはナミ。
「デンちゃん、デレデレすなっ!」