今日も同じ夢を見た。あれは一体何なのか。

そんなことを考えながら、熱心に授業を行う先生の話を聞き流していた。頬杖をつき、ぼんやり空を眺める。
3年にもなって、まともに受験勉強すらしていない私はきっと平凡な人生を生きていくのだろう。
飛行機が、真っ青な空に白い線を描いていく。
私も空を飛べたら、、、なんて空想の世界のことまで考えてしまう。


窓際の席はどうしてこんなにも暖かく眠くなるのだろうか。
私は突然の睡魔に襲われた。



「どうか私たちを助けてください。私たちにはあなたしかいません。どうか、どうか、、、」
隊服のようなものを着た男の人がそう必死に私に訴えかけている。
私が誰を助けるの？あなたは誰？

「陛下！どうか助けてください。」

私に言っているの？


「、、、き、、崎、神崎、神崎起きろ！」

私はその声がはっきり耳に入った瞬間、頭に強い衝撃を感じた。
「さっさと起きろよ。」
衝撃があった方を向くと隣の席の黒川が教科書を丸めて持ち、私の方を見ていた。
この痛みの正体は黒川か。私は嫌味ったらしくありがとうと言った。
先生が不服そうにしながらも授業を再開したのを確認して、黒川の方を横目で見た。

黒川涼。成績はいつも学年トップ5入り、運動神経も申し分無し、サッカー部の主将でエースだ。一年の頃から黒川の実力を上回る人はいなかった。まさに文武両道、天才。けれど、人格には問題がある。入学してから一歳、クラスメイトに関わろうとしない。1年からずっと何故か黒川と私は同じクラスだが、一度も話したことはないし、誰かに話しかけているところも見たことがない。

きっとさっきも私を起こすためだけに話しかけたのであろう。彼の学びの時間を削ってしまうことになるから。
そんなことを考えていると無性に腹が立ってきたため私は睨むように彼の様子を伺った。

　すると、ばっちり彼と視線があった。驚いて固まってしまうが、彼も視線を外さない。
なんとも言えない空気が広がる。気まずくなってしまった私は数回瞬きをしながら黒川から視線を外した。



　今日の黒川の行動を不思議に思いながら過ごしているとあっという間に1日が終わった。
クタクタになったバッグに教科書を詰め、昇降口に向かう。靴を履き替えていると雨の匂いがした。出入り口のところ前行き、空を見上げた。空は晴れているのに雨が降っている。狐の嫁入りか。
そんなことを考え、小さくため息をついてから常備している折り畳み傘を取り出す。空は澄み渡っているのに傘をさしているのはなんだか非日常のように感じる。

ペトリコールが鼻腔をくすぐる。雨の匂いがペトリコールと呼ばれていると誰に教えてもらっただろう。忘れてしまった。

私は学校から徒歩20分のところにある寮へ帰った。量といってもアパートのような建物で1人1室ずつ与えられている。
私は中3まで児童養護施設で育った。両親は私が生まれてすぐ、不慮の事故で亡くなったらしい。私が育った施設は父の同級生が働いているところだったため、両親お話を聞くことは多かった。施設で何度か写真を見たことがあったため、両親の顔は知っていた。あの夢に出てくる人たちと同じ顔だ。けれど、あんなこと実際に起きているはずがない。だって両親は夜、車に乗っている時に事故に遭って亡くなったから。車は大破し、炎上もしていたため、遺体は見つけることができなかった。

両親のことを考えながら私は制服を脱いだ。家着は、やはり落ち着く。
剥いだものを洗濯機に入れ、スタートボタンを押した時、ノックの音が聞こえた。

「どうしてインターホンを押さないの？」
そう疑問に思いながら、玄関の方へ向かった。