あれは、月の光が一筋も差していない暗い夜のことだった。私の方へ向かって、真紅に染まってしまった体を必死に引き摺りながら両親が近づいてきている。いくら手を伸ばしてもベビーベットに寝ている私には全く届きそうもない。ついさっきまで太陽のような笑顔で幸せそうに歌い、舞い踊っていたのに。どうしてそんなに顔を歪ませて眉間に深い皺を寄せて苦しそうなの。

 二人が何かを必死に言っているけれど泣き叫んでいる私には何も聞こえない。あの人は誰なの。両親の方を向いて笑っている。肩を揺らし、爪を噛みながら目を見開いて笑っている。すごく不穏で不気味な光景が目の前に広がっている。息を引き取ろうとしている人を目の当たりにしてどうして笑っていられるのか。私には全くわからなかった。その人は私の方へ向き直ると気味が悪いくらい口角をさらに上げてゆっくり歩いてきた。瞳に光は宿っていないが瞳孔が完全に開いてしまっている。

 その人が私の頭に手をかざした瞬間、頭に電流のような強い衝撃が走った。体の力が一気に抜けていくのがわかった時、私は、視界が朦朧とする中、意識を手放してしまった。両親と一緒にこの小さなお城のような家で過ごす幸せな時間はこの瞬間崩れ落ちた。この男のせいで私の人生は崩壊し、狂ってしまったのだ。 

 目を開けると肌寒く、ただ真っ暗な世界がどこまでも広がっていた。あれからどれくらい時間が経ったのかはわからない。まだ歩けない私には恐怖でしかない。何か聞こえる。誰の声かはわからないけど何を言っているのかははっきりわかる。あの日の、あの金に目がくらんでしまった人が集まったパーティー、大勢の大人に囲まれて罵倒されたり、服を掴まれたり両親を失った日のことを追求された記憶が蘇る。

 「お前のせいで二人は死んだんだ。お前さえ生まれてこなければ。お前さえ生まれてこなければ二人は今でも幸せに生きていたんだ。」

 「あんたのせいよ。あんたのせいで二人が死んだってわかってんの。二人はあんたのせいで苦しみながら死んだのよ。あんな殺され方、まさに生き地獄だわ。二人じゃなくてあんたが死ねばよかったのに。」

 「ちゃんと責任取れよ。ほら言ってみなよ。私が生まれてきたせいでこんなことになってしまって申し訳ありませんって。言えよ。」


怖いよ。苦しいよ。もう消えてしまいたいよ。お父さん、お母さん、どうして私だけ残して死んでしまったの。どうして私のせいで殺されてしまったの。教えてよ。もう生きているのが辛いの。あの時からずっと孤独で、誰かにこの辛い気持ちを聞いてほしいけど、もう誰も信用できないの。ねえ、お願い。助けて。私は頭を抱えて声も涙も枯れるまでただ泣き叫んだ…


 
 「はっ。また夢か。もう、しんどいな。」
 見慣れた天井を呆然としながら見つめているとじわじわと視界が滲んだ。私の頬を一筋の涙が伝う。
 最近同じ夢ばかり見る。毎日、絶望を感じながら一日が始まる。 

 私にとって、毎日眠ってこの夢を見ることが憂鬱だった。