???『興戸‼️ さっさと白状しなさい……。
どうせ…………。
どうせ、あんたが毒を盛ったんでしょう❓』

『ち、違う‼️
自分は、ただ……。』

軽音楽室、そこに響き渡るのは演奏ではなく……。半狂乱の罵声、悲鳴、怒鳴り声。
どうして……?。
一体……。 なんでこうなったんだ?


遡ること数日前。

琴音 『おい千秋~。
いつまで引きこもってる? そろそろレポートくらいは……。』

『うっせー。 担任の癖に、保護者ヅラすんじゃねぇよ』
固く鍵を閉ざしたドアの、向こうから深い溜息が聴こえる。

琴音『 なぁ〜……。 お前最近おかしいぞ?
……。流石に、敬語だけは使えって。 』

『……。』
うぜぇ。 どうしようが俺の勝手だろ。

琴音『出席日数もヤバい。
成績もヤバい。
あんま言いたくないんやけど、
…………。 お前の、退学も視野に入れてるぞ?』


『……。』

琴音『あのさ、これ。来月なんやけど……。』

スッ…と、ドアの隙間からポスターが差し込まれる。

琴音 『お前らのバンド、今度ライブあるらしーな。
顔、出さなくて良いのか?』

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ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

何とか声を絞り出そうと努めては見た。
また足が竦んで、動けなくなる。
息が、苦しい。
あぁ。これで何回目だろうな。

『い……。行けない。』

琴音『え?』

『もう、駄目なんだよ俺はぁ‼️
あいつらに顔合わす資格がねーんだよ。
もう、もうほったっといて……。
俺には、構わないで
……。ください。』


琴音『…………。』

顔中、酷い汗をかいている。涙でじゅくじゅくに歪んでいく俺の視界で、
最後に映ったのは……。

琴音『オルァァァ‼️』

琴音がバールでドアをこじ開ける姿だった。

『……。は?』

一方その頃……。


興戸 『うん、大体そんな感じで良いっすよ~。
演奏は……。 ね?』

一同 『『え?』』

演奏だけ、? どういう事だろう???

『先輩、演奏だけって……あとは何なんでしょうか?』
やや不満げにそう言葉を返したのは、音無さんだった。

『あ、あの〜。 ラム先輩、まだなんか改善点あるんすかね?
オレ、今の演奏で精一杯何すけど~』
辟易とした様子で共鳴くんも答える。
既に疲れ果てて魂が燃焼しきった、と言うかの様に、ぐったりと項垂れていた。

興戸 『ん〜 そーっすね~……。
【ノリ】が足りないってゆー感じ?』

ノリ???? 何それ。

共鳴『あ〜ハイハイあれね?
ノリでしょ? 知ってる知ってる~』

音無『へ〜。じゃあ何なの❓』

共鳴『………。
いや、あれですよ。
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別に知らないとかそんなんじゃ無いんですよ?』

音無『……。』

共鳴『ピェッッ‼️』

音無さん……。
あ、あまりにも酷い目付きをしていた……。
まるで干からびた蝸牛を棒でつつくかのような。

興戸『あの〜、御三方 ……。
ちゃんと話聞いて?』
若干呆れた眼をしながら 羅夢先輩は続ける。

『えーと、ノリって云うのは……。 こう、'全身でリズムをとる'
って感じっすかねー。』

共鳴 『あ〜なるほどー。』

『お、分かった?』

共鳴 『全然分からん‼️』

『……。』

グッタリと項垂れる興戸先輩。
正直なところ、僕もあまり良く分からない……。

音無『あのー 先輩、この人たち
1回見せた方が分かりやすいんじゃないですかね?』

もたつく僕らを横目に、音無さんが助言を出してくれた。

『多分、2人とも言葉で伝えても理解出来ないんで。』
……。

共鳴『めっちゃ辛辣‼️
何なんお前……。』

興戸『アハハ、そうっすね〜
じゃあ1回見せよっか。金木くん ギター少し貸してね。』

共鳴『は、ハイ‼️ 喜んで‼️』

涼やかな声で軽く笑いながら、興戸先輩はドラムセットの椅子に軽く腰掛けた。

『君らね、《上手く弾く》ってことを意識しすぎてさ……。
ちょっと身体が 固まりすぎてるんすよね〜。
ほら、こんな風に』

そう言うと、前かがみになったまま さっきの曲を弾き始めた。
窓からさす陽射しを浴びて輝く髪の隙間から、キラキラ光る眼が覗く。

『えーと、それって何が駄目なんですか?』
僕の疑問に、少し目を伏せながら先輩は答える。

『演奏を頑張ろうって必死に気張る気持ちは凄く良いんすけどね〜
でもそれだと、観客のみんなからはどう見えると思う❓』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼️
観客から、どう見える❓

『そう、幾ら素晴らしい演奏でも、演奏者の様子が
ぎこちない動き、固い身体と表情。
そんなんじゃ決して……。楽しそうには見えない』

共鳴 『楽しそう、かぁ……。』

『そーゆーこと。 だから1番大事なのは、演奏者が楽しんで弾くこと。
笑顔で演奏‼️ リズムにノッて身体を揺らす‼️
こんな風に、さ。』

そう言うと、先輩はさっきの曲を弾きながらトントンと右足のつま先で軽く
床を叩き始めた。

『拍子をこう、最初は軽く……。』

次第に身体の動きが大きく、ヒートアップしていく。

『慣れてきたら、肩の力を抜いて、腰の骨を使う感じで……。
上半身でもリズムを取れる様に。』

サビに入ると同時に、振り付けはいよいよ激しくなった。

先輩の振り付けに、無駄は1つも無い気がした。
均衡の取れた動きに、つい見惚れ込んでいるうちに、曲はクライマックスを通り過ぎていた。

『あと、とにかく……。笑顔でね。
それだけは、何がなんでも忘れちゃダメだから。』

先輩は、凛とした眼差しで真っ直ぐに僕の瞳を見据えた。

『自分がこんなこと言うと、あれなんすけど……。
音を楽しむ って書いて【音楽】なんすからね。
上手く弾く より 上手く魅せる ‼️』

そう言うと、右手で小さくガッツポーズをとった。

『わ、分かりまし『了解しやしたぁ‼️ パイセン‼️』

共鳴君が即座に割り込んで来た。

音無『五月蝿い。 ちょっと黙ってくれる?』
すぐさま音無さんが、睨みつけながら悪態をつく。

興戸『アハハ、賑やかっすね〜』

わ、笑ってないで あの2人止めないと……。
涼しげな先輩を横目に、今にも喧嘩が始まりそうな2人を制止しようと振り向いた瞬間、

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さっきと打って変わって寂しげな、興戸先輩の呟きがふと耳を突いた。


『いいなぁ……。 ″ あの頃″の自分らみたいでさ……。』

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哀愁漂う、その呟きは 妙に淋しげで、
今にも泣き出して仕舞いそうな 幼子の様で

……。僕は、何も言葉を返すことが出来なかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

それから数日後

『よし、良い感じ~
上手いことノッて来れるようになったっすね~。』

白黒 『ほ、本当ですか?』

聖帝学園 軽音楽室。
今日は日曜日で授業が無いけど、この後輩たちは(一人を除いて)自主的に集まって
スケジュール外のバンド練習をしてくれている。

流石に先輩の自分が休む訳には行かないので、かれこれ2時間程 練習に付き合っていた。

音無『さすがに、ちょっと疲れたね。
センパイ、ちょっと休んで良いですか?』
ーーーあぁ、どうぞどうぞ。

『処で、報酬の件何ですけど〜。』
ーーー。 まだ覚えてたんすか。

白黒『キーボードって、結構ピアノと力加減が違うんですね〜。』
ーーー。 まぁ、これは電子だからね〜。


共鳴『よーやく地獄の……。か、過酷な練習が終わったな〜。
よし、ゲーセン行こ〜ぜ‼️』
……。おい‼️

『ま、まぁ……。 少し休憩してから、もうちょい仕上げよっか……。』

『『はーい』』
無駄に威勢の良い返事が部屋に響き渡る。
何か……。 懐かしいな。こーゆうの

『いいなぁ……。』思わず呟きが出た。

白黒『……。どうしました?』

『千秋たちに……。 あいつらに
似てるね。君らって。』

共鳴『へ?』

『バカっぽくて、ウルサくて。
……。元気でさ。』

音無 『はァ❓ バカっぽく❓
この人たちはともかく、 莉子が?』

共鳴『オイ 馬鹿野郎空気読め‼️ 意味がちげーよ……。』

『アハハ、いや 何でもないっすよ〜。
気にしないで‼️』

きっと戻って来る。
アイツらも……。千秋も。
信じるしかない。 今はともかく、自分に出来ることを精一杯するだけだ。

その時だった。

???『失礼しま〜す‼️』
扉を力強く空け、入って来たのはツインテールの女子だった。
何故か右手に籠を持っている。

音無『あれ、凛じゃん。どしたの?』
どうやら知り合いらしい。

『ええっとぉ。皆さん初めましてぇ〜
あたし 【丹波 凛】っていいマース。』

共鳴 『とぉ……。共鳴デス‼️ よろしく‼️』
コイツ。 女子に対してテンパリすぎだろ……。

丹波 『友達がバンドやるってきーたんでぇ~
差し入れ、持ってきたんですぅ。
良かったらどーぞ、♡』

白黒 『あ、ありがとうございます‼️』

丹波 『じゃぁ〜。談話室行きましょ〜
カップケーキなんですけど、甘いのとか 大丈夫ですかぁ?』

『あぁ、大丈夫っすよ。』
なるべく明るい声を出そうとした。 それでも……。
今の自分の笑顔はきっと引きつってるだろう。

ムジーク能力の代償として味覚を失った、あの日の事を思い返す。
当時は別段、それを哀しいとは感じなかった。
せいぜい 蛙だの蜥蜴だのを喰うのに抵抗が無くなった位だ。

されど……。 現在の暮らしの中で、今のように、周りとのちょっとしたやり取りの中で
自分が如何に異端者(殺し屋)なのか、思い知らされる気がする。
自分に課せられた試練を実感する度に、自分の 血統の枷を否が応でも噛み締めざるを得ない。

もし生まれ変わったら、普通の人間になって、普通の暮らしをして、普通に死にたい。
祈るだけ無駄だけど。

談話室は学園の3階廊下側にあった。

丹波 『紅茶、あたしが淹れますねぇ。』

音無『うん。 ありがと。』

丹波さんは、手際良くティーカップを布巾で拭いていく。

『キャアッッ‼️』

共鳴 『あっ……。』

急に手が滑ったのか、白塗りのティーカップのうち1つが割れてしまったらしい。

音無 『あ〜。やっちゃったね。
今備品で残ってるの、ボロいコップしか無いんだけど…。』

白黒『あ、じゃぁ僕それ使いますね。』

『え、いいの?』

白黒 『はい。 慣れてるんで。これの方が。』
……。 [慣れてる]って……。

共鳴 『な、何か……。 ゴメンね。』

何か聞こうとして、やっぱり閉口する。
あまり言及するのは辞めておこう。ろくな事が無い。

結局、黙ってドロりとした紅茶を喉に流し込む。
熱い液体が一気に流れ、うっかり火傷しそうになった。

音無『あ、結構美味しいねコレ。』

丹波『え~マジでぇ?
嬉し〜 ありがとね💕︎』

和気藹々とした雰囲気で、つい気が緩みそうになってしまう。
いーや駄目駄目。 ライブ前なんだから、もっと気合を入れておかないといけないのに……。

千秋たちと組んでいた頃
彼は ライブ前日は基本的に水以外、何も口にし無かった。

『俺はこうする(絶食)』と感覚が冴えるんだ。
何かさ、身体が飢えてると……。 聴覚が研ぎ澄まされる気がする。何時も。』

微かに微笑みながら、何処か誇らしげにそう語る千秋の声色は、
ーーー今まで見たことないくらいに穏やかだった。

いつも無愛想で、不格好で、不器用な奴なのに……。
音楽の、とりわけロックについての話題は狼のように食らいついて、堰を切ったように語り尽くす。
そんな時の彼の瞳は、真夏の彗星の如き輝きを放つ。

その輝きが見たくて、自分は 人生で1番必死で勉強した。
音楽について、ロックについて……。
千秋ともっと話したかったからーーーーーーーーーー。


ガシャンッッ‼️



淡い回想は、カップの割れる跫音で破られた。

音無『痛い……。 頭が……。』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー⁉️髪をきつく握り締めて、音無ちゃんが片膝をついていた。

共鳴『おい‼️ 大丈夫か音無……。
ッッ……。あれ、オレも何か目眩が……?』
……え、共鳴まで⁉️

白黒『2人とも、しっかりして下さい‼️』

『と、とりあえず医務室に連れて行こう……‼️』

自分が助言を出すと、何故か体調不良になって無さそうな タクトが
突然の事態に、焦りと混乱を隠せない様子で、それでも何とか二人を介抱しようとする。
自分は教員を呼ぼうと、談話室を出ていこうとした瞬間ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。


丹波『ふざけんなよ‼️』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。え?

丹波 『お前がやったんでしょ、興戸‼️
何であんただけが平気なの❓ 』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。平気❓


騒ぎに気づいたのか、教員たちが談話室室にけたたましく駆け込んで来た。

教員『な、なんだ‼️ 何があった❓』

丹波『センセーイ、この人です‼️
此奴(興戸)が皆に毒を盛ったんです。』

『ち、ちょっと、自分はただーーー。』

教員『確かお前は
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。 興戸一派(殺し屋一族)、だよな。…。』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……。

そんな、自分は……。

丹波『はーい、さっさとこいつ捕まえて下さい、《毒殺未遂》でね‼️』
勝ち誇ったかの様な声色で丹波が叫ぶ。

もしかして、コイツ、自分が興戸一派って知ってて……。
冤罪を擦り付けようとしてるのか⁉️

……。何で⁉️


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー何の為に⁉️



【 次回へ続く⁉️】