ここは、3020年東の大陸ジャポネ。
この物語は、とある少年の紡いだ闘いと奇跡の記録である。




『僕、将来世界一のムジーク使いになるんだ!』
 溢れんばかりの満点の星空のした、力一杯そう叫んだ僕の頭を、姉さんは優しく微笑みながら撫でてくれた。
『ふふ、頑張ってねタクト…離れていても私はいつでもあなたを応援してるよ…!
先に『聖帝学園』に行ってまってるから、一生懸命勉強するのよー…。』
 この世界は、人口の約4分の1割の人が、ある特別な能力を宿している。それは『ムジーク』
 その能力は人によって違いがあり、例えば超音波を出したり、糸を自在に操ったり…。
 共通点は一つ。全て『楽器』に関する能力だ。ムジークについてはまだまだ研究中で、謎だらけだ。いつから発生したのか、何故発生するのか…。
 しかし、ムジークが使える人の中には、悪用し出す犯罪者達もいる。
 彼らに対抗できる正義のムジーク使いを育成する為に建てられた音楽学校こそ、聖帝学園だ。
 僕は両親の顔を知らない…幼い頃に事故で亡くなったしまったときいた。
 姉さんはいつも優しく幼い僕の世話をしてくれる、世界で一人の家族だった。そんな姉さんは生まれつきあるムジークを宿していた。
 満月のように白くて美しい姉さんの指が、そっと白と黒の鍵盤に触れる。すると初秋の夜の露のような涼やかな音色と共に、辺りには見たことのない良い匂いの花々が咲き誇り、
 そして天使の歌声が響き渡る。
 ある時はそれが正教会のクワイアに、またあるときは陽気な宴の饗宴が奏でられた。
姉のピアノ…。ムジークはどんな曲でも完全完璧に、理解してその全てを、作曲家の意思を、込められた意志を『演奏』することだった。
 簡単に言えば、姉は楽譜に新たな生命の息吹を吹き込める、
 彼女は音楽を『愛して、愛された』女神だった。

そして姉は翌日、聖帝楽園へ特待生として14歳の若さで異例の入学をし、僕に毎週近況報告の手紙をくれるようになった。

『ちゃんと勉強はしてる?私は明日からムジークの研究実験に参加することになりました。忙しくて少し手紙が書けなくなるかもしれないけど、心配しないでね。体調に気をつけてね。』

 
 それを最後に 手紙は途絶えた。
 姉はムジークが使えるが、僕にはどう頑張っても発動しない。僕には才能が無い。
 聖帝楽園はムジーク使い以外は絶対に入学できない決まりがある。
 姉さんは、今どこで何をしているのだろう。生きてるのかどうかすらも知る術がない。
 世界でたった一人の家族さえも僕は失ってしまったのだ。


 3年後、路地裏
ヤンキー『おい! 待てこのメガネ!!!!』
 ムジーク使いが『女神に愛された天使達』なら、才能の塊なら、
 僕のような非ムジーク使いは、、『悪魔』なのだろうか。
『俺らお金持ってなくてさ〜…。 ちょーっっとだけ、、貸してくんないかなぁ????』
 悪魔が虐げられるのは当然なのか?
『オイ!!!聞いてんだろゴルァァァァァァ‼️』
 ムジークが使えない僕は無価値だ。
  『聞こえねえ〜のカァァァ‼️』
 無意味だ。
『チョーーシノンナアアア‼️‼️』
 ………無力だ…

 ??『さっきから騒がしい』
 ヤンキー『あァ❓』
 ??『吾輩は『作曲』中だ。黙りたまえ…。』
 …?? 誰だ、この男は? 高そうだけどボロい季節外れな黒のコートに、手入れしてない癖だらけの白髪、手に持っているのは……楽譜だろうか?
 その男はまるで喋ることすらめんどくさい、と思っていそうな表情でゆっくりこちらを向いた。
高身長なので向かい合うとかなり威圧感があった。
男『……名前は?』
 『え?』
男『君……名前はなんだ?』
なんなんだこの人は…?
『……白黒…タクトです…』
男『白黒…!』
『そうか…君は……あの子の……❗️』

 !? なんで?
『あ、あなた…。もしかして、姉さんことを……知っているんですか!』
 男は大きく頷き、言った。
『吾輩は、『天音 五線』君の姉さんの…。ノアの担任をしていた、
                   聖帝学園の’元"教師だ。』
 その言葉を聞いた瞬間、処理できない程の疑問と衝撃が脳を埋め尽くし、聞きたいことでいっぱいになった。しかしそれらを口にする前に、耳障りな怒号が鼓膜をつんざいた。
 ヤンキー『ゴタゴタうるせぇんじャァァァ‼️ このバットで脳天かち割ったろかゴルァァァ‼️』
 そういえば、さっきからこいつに絡まれてるんだった…。忘れてたな…
 いや、そんなこと考える暇はない。とりあえず逃げないと……
次の瞬間、
  『ゴタゴタ五月蝿いのは貴様だァァァ‼️ 不協和音を撒き散らかすんじゃないッッッ』
 今度は男が怒号と共に、、、、拳がヤンキーの顔面に直撃した。
直撃した…が、全くもってきいてはなさそうだ。ヤンキーがタフなのかこの男が弱…。少し運動が苦手なのか恐らく後者の方が正しいのだろうが…。 とりあえず事態は悪化してしまったのでは…?
 ヤンキー『あぁ‼️ 効かねーなぁ弱ぇーよジジィ‼️』
 しかし男はゆっくり体勢を直して-- ニヤリと笑った…?まるで勝利を確信したかのように…
 ヤンキー『何笑っとんじ………、……、……』
 なんだ?急に黙ったぞ?
 さっきまで大変威勢の良かったヤンキーは突如、その場に座り込んでしまった。
いや、まるで身体中の力が消えてしまって意識を失ったように…
男は脱力したヤンキーの前にしゃがみ込み、そっと彼の額に触れる…と、いきなり引き剥がした
 え? 目の前に信じられない光景が見える。紙…。いや、違うこれは………楽譜?
どういうことだ……人の顔が、本のように、いいや本になっている。
 男『フン、下らんな……ありきたりの不協和音ばかりの人生だな』
 男はつまらなさそうに『楽譜』のページをパラパラめくり、何枚か一気にベリっと剥がした。
そして本の『表紙』と化したヤンキーの顔面にゆっくりページを戻した。
  
 その瞬間、さっきまで死んだかのようだったヤンキーがスッと目を開けた……!
しかし、様子がおかしい……? さっきまでの威勢は?まるで…怯えるトイプードルのような潤んだ眼をしているじゃあないか…
ヤンキー?『ヒィッッ!な、なんですかおじさん!僕今はお金もってないんです!!スンマセン!』
 一体何がどうなってるんだ!! さっきと全然違う!! 別人だ!
そしてヤンキーは、僕たちを置いてそそくさと足早に退散して行った。
 立ち尽くす僕に、男は得意げに語りかけてくる
『どうした白黒少年? 吾輩の華麗なる勝利に声も出ないかな?』
 一発殴ってやりたくなるほどの大変偉そうな態度に内心呆れつつ、さっきの現象はなんなのかが気になって仕方ない。
『さっきの現象について知りたくてたまらないようだな? 知りたいか? そうだろう? な?』
 ……。結構グイグイくる人だな。 少し疲れてくる……。
 『何か言ったか?』
『い、いや……。 それより、さっきのは一体なんなんですか?』
 待ってましたとばかりに、男は偉そうにふんぞり返って語り出した。
『あぁ、あれか…。吾輩の『ムジーク』だな。 "作曲"の能力を持っている。 対象に直接触れることでいつでも発動可能になる。又は、吾輩の演奏を聴くことでも発動可能だな。』
ムジーク……! やっぱり…。
『そうだ、発動すると対象の"記憶"が音符になり、相手はそれを載せるただの楽譜と化す。
  言うならば……人を楽譜にするムジークだな。』
 人を……楽譜に…!?
『どうだ? 素晴らしいムジークだろう? ……そうかそうか、素晴らし過ぎて声も出ないか…!』
  僕はまだ何も……。 やめておこう。 今度は僕が楽譜にされるかもしれない。
『あの……それで、姉の…ことは……?』
男はハッと我にかえってこっちを見た。
『そうだったな。すまない、つい……。』
『結論から言おう、白黒タクト……。吾輩は、君の姉さんに頼まれて君を迎えに来た。
                      君を聖帝学園に入学させたいと思っている。』
  !? 姉さんが‼️ 生きてたのか…!
『……3年前、ノアは聖帝学園のあるプロジェクトに参加して、……行方不明になった。
   “三日月の惨劇"事件に巻き込まれたんだ……。 』
  失踪? 三日月の……惨劇?
『聖帝学園側は、この事件の詳細を黙秘し、単なる事故として処理した。吾輩は責任を問われて辞職した。吾輩にも詳しい情報は一切伝えられなかったしかし、……。 ノアはその少し前、“私に何かあったら頼む"と、君の住所ほと名前のメモを渡した…。そして今に至る訳だ。』
 姉さんが…失踪………。
『もちろん、君が何か別にしたいことがあるならばそれでいい。だが、君がノアの行方を本気で探して、事件の真相を望むなら…………。真実は聖帝学園が握っている。さぁ、どうしたい?』
 答えなんて決まってる。
  『僕は……聖帝学園に入学します。 三日月の惨劇の真実を知りたい。そして必ず姉さんを探し出す。何がなんでも…!』
『君なら、白黒ノアの弟ならそういうと思ったさ…。よし、そうと来たらすぐ荷物をまとめろ、
   早速"受験勉強"を始めるぞ…!』
『あ、あの、天音さん……!』
  『教授だ。』
『え?』
『吾輩のことは教授と呼びたまえ…。』
『辞職したんじゃ…』
 『ほぅ……。貴様は楽譜にされたいのか?』
『本日よりよろしくお願いしますいたします!! 天音教授!!!!』
『フン、良かろう…早速レッスンを始めるぞ、ついてこいタクト‼️』
 ついてこいと言うか、めちゃくちゃ遅いけど…指摘しない方が良いのか?
  そうして、風変わりな変人教授と僕の受験勉強の日々が幕を開ける。


 
 第1章  完ッッッ‼️