「葵。明けましておめでとう」
 俺の顔を見ながら、満足そうな顔をする。
 なんだ、ちゃんと新年の挨拶ができるんじゃん……そう思いながら、俺も挨拶を返そうと口を開けば、再び唇を奪われてしまう。
 チュルンと侵入してくる熱くて甘い舌を、俺は夢中で頬張った。
 歯列を舌でなぞられてから、俺が感じてしまう上顎を刺激される。


「あぁ……気持ち……」
 息を吸おうと成宮先生の唇から逃げ出せば、グッと腰を強く抱き寄せられて口付けられる。
「はぁ……千歳さん……気持ちぃ……千歳さんのチュウ、好き……」
 成宮先生の首に腕を回して、自分から積極的に舌を絡めた。
 甘い甘いお互いの唾液を味わって、コクンと飲み込む。飲み込み切れずに、口から溢れたものを成宮先生が舐め取ってくれた。
「もっと……もっと……」
 酸欠になるくらい深いキスを交わす。


「今年もたくさん、葵を可愛がってやるからな?」
「本当ですか? 嬉しいなぁ」
「ふふっ。相変わらず可愛い」
 そう言いながら、今後は成宮先生が甘えたように俺の胸に顔を埋める。そんな子供のような仕草に、思わず目を細めた。


 成宮先生はいつも俺のことを可愛いって言ってくれるけど、成宮先生だってとても可愛らしい。
 しかもこんな甘えん坊な姿を見ることができるのは、世界中にこの俺だけ……そう思えば、心の奥底から満足感に満たされていくのを感じる。
 新年を迎えた瞬間は独りぼっちだったけれど、こんな幸せな元日を迎えられたことが嬉しくて……。
 俺は幸せを噛み締めたのだった。


 祝日の勤務は出勤こそ憂鬱だけど、業務自体は最低限のことだけで、後は看護師さんに呼ばれたら顔を出す……という感じだ。 
 それでも俺は、医局でじっとしていることなんてできず、病棟に出向いては子供達と一緒に過ごしていた。
 そんな中、看護師さんが習字の準備をしてくれたから、俺もそれに混ざることにした。子供達とワイワイ話し合って、今年の目標を書くことになった。


「水瀬先生はなんて書くの?」
「そうだなぁ……どうしようかなぁ?」
「成宮先生に怒られませんように……じゃないの?」
「え!? なんでわかったの!? みんな先生達のことをよく見てるんだね?」
「あははは! 冗談だったのに本当だったんだね!」
「あの優しい成宮先生が怒るなんて、水瀬先生なにやってんの?」
 その場にいた子供達が一斉に笑い出す。
 普段は辛い治療を受けている子供達の笑顔に、俺は涙が出るほど嬉しくなってしまう。
 よかった、みんな笑ってて……。


「よし、書くぞ!」
 たかが遊びの習字かもしれないけれど、やるからには本気だ。
 俺は集中して筆を持ったのだった。


「あー、白衣が墨だらけだぁ」
「ふふっ。白衣にまで字を書こうとしたのかよ?」
「違いますって……酷いなぁ」
 医局に戻った時には、俺の白衣は墨だらけで……こんなことになるんだったら、白衣を脱げばよかったと後悔してももう遅い。
 それでも『成宮先生に怒られない』という今年の目標は、想像以上によく書けたのだった。


「ほら」
「あ、すみません」
 ちょうど三時のおやつの時間に、温かいココアを買って来てくれた成宮先生が、そんな俺を見て相変わらず笑っている。


「帰り、病院の近くの神社に初詣に行こうか?」
「え? 初詣?」
「そう。それまでゆっくりしてな」
 俺の顔を覗き込んだ成宮先生が、にっこり微笑む。
 今日は何だか機嫌が良さそうだ。
「初詣か……」
 久し振りのデートみたいだな……俺は、少しだけ胸をときめかせた。