俺はソファーに座ってスマホでゲームをしていた。もう長いこと、持ち帰りの仕事を頑張っている恋人の体が空くのを、ただ大人しく待っているのだ。
 まだかな………。
 いい加減ゲームに飽きてきて、ついウトウト微睡んでしまう。
 静かな室内に響き渡るパソコンのタイピン音に、マウスをクリックする音……それがすごく心地いい。


 その時、随分と聞きなれた声で名前を呼ばれる。
 「葵」って……。
 それと同時に、唇に触れる温かい感触に夢から現実に引き戻された。


「成宮先生、リップクリーム嫌いだから、唇がガサガサして痛いです」
 本当はこんなじゃれ合いをずっと待っていたのに、強がって嫌がる素振りをしてしまった。
「うるせぇよ」
 今度は深く口付けられた。
 良かった、続けてくれて……。素直じゃない俺がそっと安堵する。
 顔の角度を微妙に変えて、少しずつ熱を増すキスに酔いしれ始める。彼を受け入れるために顔を上げ、唇を薄く開いて舌の侵入を自ら迎え入れた。


 普通、他人の唾液なんて気持ち悪いし汚く感じるのに、なんでこの人のは汚いと思わないんだろう……むしろ、もっともっと自分の口内に注ぎ込んで欲しいとさえ思ってしまう。
 それはまるで全てを麻痺させる媚薬のようで。
 柔らかい唇、温かい舌。時々漏れる甘い吐息。
 全身の力が抜け、成宮先生の口付けに骨抜きにされてしまった。
「葵、もうとろけてる。お前、本当にちょろいな?」
 成宮先生が悪戯っぽく笑うけど、気持ちいいんだから仕方ないじゃないか……。
 

 お互いの舌を絡め合わせれば、キスの熱はどんどん高まり、
「あぁ…あ、はぁ、んんっ」
 と、自然に甘い吐息が溢れ出す。これじゃあ成宮先生の思うツボだ。
「エッロ……」
 ほらね…? 結局いつもみたいに弄ばれてしまう。
 何かに捕まりたくて手をさ迷わせれば、両手の指を絡み取られ、そっとソファーに縫い付けられた。


 もっとして……。


 離された成宮先生の唇を、思わず視線で追いかけてしまう。
 俺の体はすっかり火照り、こんなんじゃ全然物足りなくて。自分から成宮先生の体を引き寄せ、キスをねだる。
長い長い時間、お互いの唇を味わい続けた。
 ふと、違和感を感じて目を開ければ自然と視線が絡み合う。


「なんで成宮先生は、キスしてる時、目を開けてるんですか?」
 いつも感じる疑問。
 まぁだいたい考えていることは察しがつくけど……。一般常識とか考えて欲しい。
「葵のキスしているときの顔、めちゃくちゃ好きなんだから仕方ねぇだろう」
 予想通りの回答に思わず笑みがこぼれてしまう。
 本当に可愛いな……。


 額や頬、首筋にキスを受け、ねっとりと唇を貪られたら体が素直に次の行為を欲してしまって……。つい潤んだ目で成宮先生を見つめてしまったらしい。
 ふと彼の目が悪戯っぽく、三日月のように細められた。


「葵、お前、今何を考えてんの?」


 その言葉に一瞬息を呑む。顔に熱を帯びてくるのが自分でもわかってしまった。
 素直に言おうか言わまいか悩むけど、ここは一つ可愛い恋人を演じようと腹をくくる。
 そっと成宮先生を抱き寄せ、耳元で囁いた。
 できるだけ甘えた声を出して。「これでもくらえ」と心の中でほくそ笑みながら。


「俺、成宮先生とエッチなことしたい……」


 少しびっくりしたようだけど、満足そうに、幸せそうに成宮先生が微笑んだ。
 その表情は、天邪鬼な彼が、俺への愛情を素直に表現してくれるように感じられて、心がくすぐったくなる。
そんな愛しい恋人にキスをされて、俺はまた蕩けてしまった。


 優しくて甘くて、温かくて柔らかい。


 あぁ……俺は、この人とのキスがすごく好きだ。
「あまぁい」
 俺は成宮先生の唾液で濡れた唇で、そう囁いた。