「やりてぇ……」
「はい?」
「葵にくっついてたら、ヤリたくなった」
「い、今までの流れのどこに、その要素が……?」
「だって、お前の全てがエロいから」
「ごめんなさい、意味わかんない」
成宮先生は意味不明な理屈を並べたてて、俺の腰に更に力を籠めて抱きついてくる。
その言動全てがめちゃくちゃなのに、それを咎めようという気持ちにもならない。だって、成宮千歳という男は、そういう人間なのだ。
俺のシャツの中にシレッと手を忍ばせ、無遠慮に体を撫でまわし始める。そのままキュッと胸の飾りを摘ままれると、俺の体がピクンと跳ね上がった。
「あぅッ! ちょっと……千歳さん……俺、この資料、今日中に作らないと……あ、あッ」
「何でだよ、後でいいだろう?」
意地の悪い笑みを浮かべた成宮先生が突然体を起こし、俺の首筋をペロッと舐め上げた。
「あぁ! 首……駄目ぇ……」
「駄目じゃないだろう?」
「はぁ、あ、あッ……」
両方の突起を指先で虐められれば、俺の吐息がどんどん甘くなっていくのを感じる。
俺の困った顔が大好きな成宮先生は、ニコニコとご満悦そうだ。
「あ、あぁッ。ちくしょう……」
俺は、ギュッと唇を噛みしてから、力任せに成宮先生の体を突き放した。
「なら、ご飯食べてからにしましょう?」
「はぁ? 飯? なんで? 今そういう雰囲気だったじゃん」
「駄目です。ご飯が先です。もう八時過ぎてるし」
時計を見れば、もう二十時を回っていて、俺のお腹の虫は先程からキュルキュルと悲鳴を上げていた。
それでも、まるで猫みたいに自分の胸に頬擦りしている成宮先生を見れば、もっともっと甘やかしてやりたくもなるのだ。
柔らかい髪を優しく撫でてやれば、気持ち良さそうに目を細めた。
「可愛い……」
思わず口をついた本音。
本人に聞こえるとまた調子に乗るだろうから、聞こえないようにそっと呟いた。
なんやかんで、俺は成宮先生が可愛くて仕方なかった。
だって、いろんな診療科の部長達でさえ一目置く若きスーパードクターが、子供みたいに甘えてくるなんて……。こんな姿は、絶対に俺しか見ることができない。
そう思えば、自分はこの人にとって、本当に特別な存在なんだな……って感じることができたから。
立ち上がってキッチンに向かおうとすれば、成宮先生が俺の腕を掴む。バランスを崩した俺は、もう一度その場に座り込んでしまった。
「今度はなんですか?」
小さく溜息をつけば、成宮先生が切れ長の瞳で俺を見上げていた。
今日の成宮先生は、本当に理解に苦しむ行動ばかりで……さすがの俺も困ってしまう。
「いいよ、俺がどっかで弁当買ってくる」
「え?」
「なんか、今日の葵……疲れてそうだから」
「成宮先生……」
「だから休んでて。まだ、資料作りも終わらなそうだし」
床に放り投げてあった上着を無造作に羽織って、鏡を覗き込みながら手櫛で髪を整えている。
正直、資料が作り終わっていなかった俺は、成宮先生の気遣いがすごく嬉しかった。
自分勝手に振舞っているようで、ちゃんと俺のことを考えてくれていたことが、擽ったい。やっぱり、俺の恋人は優しいのだ。
ただし、超が付くほどの我儘だけど……。
俺がつかれている理由の半分は、あなたが原因なんですけど? と言ってやりたい思いを、グッと心の奥に押し込めた。
「だから……」
成宮先生が少しだけ照れくさそうに俯く。その整った顔が、少しだけ赤らんでいた。
「飯食い終わったら、抱かせてな?」
そう言い残して、成宮先生は出掛けて行ってしまった。
パタン。
ドアの閉まる音が聞こえた後、静けさだけが広い室内に残される。
「ちょっと……今飯食っても、味なんかしないでしょう……」
俺は悶絶しながら、頭を抱えてその場に蹲った。



