あなたのお気に召すままに


「兄貴はさ、葵さんと仲直りしたの?」


 事後の気怠さを纏った成宮先生が誰かと電話している 。話す口調から、咄嗟に智彰かな……って思う。
 俺は眠くて、目を開けることさえできない。
「ん? 仲直りも何も、葵は全然悪くないよ。俺が全部悪い」
 成宮先生も眠いのか、くはぁ……なんて大きな欠伸をしていた。


「葵さんを放っとかないほうがいいぜ? 多分、すぐに浮気相手なんか見つかるから」
 それを聞いた成宮先生が一瞬反応を見せる。
「もしかして、あいつ、智彰んとこに『浮気しよう』なんて行ったりしたのか?」
「来たよ……抱いてって泣かれたよ」
 それを聞いた成宮先生が目を丸くした。


「あっ、何もしてねーよ! でも、ぶっちゃけ心が揺れた……あの人に迫られて、断れる男はマジで貴重だよ」
「あったり前じゃん。俺の猫は可愛いんだから。抱いてみろよ? 癖になるぜ?」
「止めろよ、照れるだろうが……」
「嘘だよ。貸してなんかやらねーよ? 誘われたとしても、絶対手を出すなよ」
 本気で照れているであろう智彰に、成宮先生が悪戯っぽく笑っている。


「俺さ、やっぱり葵がメチャクチャ好きだわ」
「そんなに大事なら、ずっと離さないで傍に置いとけよなぁ!」
「あぁ。もう絶対離すもんか……これからは、あいつを今まで以上に大切にする」
「はいはい、ご馳走さまです。でも、俺も今年は楽しいクリスマスになったよ」
「へぇ、そっか」
「うん。悪くなかった……かな?」
 智彰の幸せそうな声が聞こえてくる。


「智彰も、メリークリスマス」
 成宮先生が、いつもみたいな優しい笑みを浮かべた。