今日、恋人の誕生日でもあるクリスマスイヴに……俺は浮気をします。
付き合って何ヵ月記念日とか、バレンタインデーとか、ましてやクリスマスなんて……どうでもいい訳じゃないけど、あんまり興味がない。
だって、大の男二人が、
『クリスマスは一緒に過ごそうね』
なんて盛り上がってたら、気持ち悪いにも程があるじゃないか。それに、俺の恋人はそういった面倒くさいイベントの類に興味の薄い俺だから、一緒にいて楽なんだと思う。
でもさ、たまには考えることもあるんだよ? サンタクロースって、本当にいるのかなぁ……とかって。
アホらしいかもしれないけど、毎年クリスマスの朝に目を覚ますと、枕元にプレゼントが置いてあるんだ。
「これくれたの千歳さんですか?」
枕元に置いてあったプレゼントを持って、リビングで仕事をしている成宮先生に聞いてみる。
「ん? 知らない。サンタクロースじゃん?」
「あなたはこの年にもなって、サンタクロースを信じろと?」
「だって俺じゃねぇもん」
あまりにも素っ気なく呟いた後、『向こうに行ってろ』というジェスチャーをされてしまった。仕方なく、プレゼントを抱えて寝室に戻る。
丁寧にラッピングされたリボンをほどき、包み紙を破かないように取り除いた。
「あ、これ……」
顔を出したプレゼントを見て、思わず笑みが溢れた。
「俺が前から欲しかったやつじゃん」
それはあるブランドのキャップだった。以前ショッピングモールで見かけて、一目惚れしたものだった。結局、時間がなくて買えなかったんだっけ……。
そう、この秘密主義のサンタクロースは、本当に粋な計らいをしてくれるんだ。俺が欲しい物を、ちゃんと把握している。凄いな……っていつも感心してしまうくらいだ。
去年は欲しかったゲームソフト。その前は、お気に入りのカップを割ってしまって落ち込んでいた時に、可愛い犬のイラストが書かれたカップをくれた。
でも、それと色違いのカップが家のキッチンに置いてあったから、思わず首を傾げてしまった。
その前はなんだっけ……あぁ、そうそう。『洋服がないよぉ』って嘆いていたら、高いブランドのパーカーをくれたんだった。
俺の欲しい物を、毎年届けてくれるサンタクロース。
素直に嬉しい。
「でも、今日まだ十二月二十三日なんだよなぁ」
慌てん坊のサンタクロースが可愛らしくて……プレゼントをそっと抱き締めた。
パソコンを前にに息抜きをしている成宮先生に、そっと声をかけた。
「あの、申し訳ないんですが…」
「あぁん?」
「もしサンタクロースに会うチャンスがあったら、『毎年ありがとうございます』って伝えておいてもらえますか?」
「あ~、わかったわかった。会ったらな」
大きな伸びをしながら、気のない返事をされてしまった。
今年は、ずっと欲しかったキャップの他に、フワフワの毛糸の帽子がついていた。
雪みたいな真っ白な毛糸の帽子。真っ赤なキャップとは正反対の白い帽子に、何だか可笑しくなった。
◇◆◇◆
回りから見たら、一見上手くいっているように見える俺達。でも、何だか最近二人の歯車は上手く噛み合ってない。
もう付き合いも長くて、家族より多くの時間を共に過ごして……恥じらいとか、遠慮や心遣いなんかも全くしなくなって。
お互いがお互い、いい意味でも、悪い意味でも気を使わなくなっていた。
そんな俺達が、すれ違い続ける原因はただ一つ。成宮先生が最近、物凄くイライラしている。
今年は、いろんな感染症が流行してとにかく忙しかったから、いつも病院は入退院でバタバタしていたし、目の回るような毎日だった」。
小児科病棟の若きエースとして、色々な葛藤があるんだとは思う。ストレスも半端ないんだろう。
最近は、話しかけても、「あぁ」とか「へぇ~」って適当にあしらわれてしまう。
忙しいからって、相手にしてもらえないことも増えた。
それは、俺に興味がなくなったようにも見えて……。
成宮先生を見ていると悲しくなってしまい、段々話しかけることが虚しくなってしまった。
そんな俺の寂しさを紛らわしてくれたのは、彼の弟の智彰だった。
俺は、成宮先生と一緒にいた時間を、智彰と過ごす時間に当てた。優しい智彰と過ごす時間は、とても心地よかったから。
「俺は部下としても恋人として役不足だから、成宮先生の役にはたてないよ……」
小さく呟いてから、大きなため息をついた。



