クリスマスイブ当日。そして、成宮先生の誕生日。


 東京は残念ながらホワイトクリスマスとはいかなかったけど、クリスマスムード一色だ。
 病棟で昼間行われたクリスマス会では、俺がサンタクロースの格好をして、子供達にプレゼントを配って回った。
「ありがとう、サンタさん!」
 みんなの嬉しそうな顔が、クリスマスツリーのようにキラキラ輝いていたのが、とても印象的で……俺まで幸せな気持ちになれた。


「さて、残りの仕事を片付けちゃおうかな」
 クリスマス会のせいで、仕事が後手後手になってしまい、残業しないと全然終わりそうもない。
 それでも、俺は温かい気持ちで仕事に取り掛かった。

◇◆◇◆

「あー!疲れた!」
 病院を出て、俺は大きく伸びをした。
 吐く息が白い煙となって、空へと昇って行く。
 病院の受付のすぐ近くにある、クリスマスツリーがとても綺麗だった。


 スマホを見れば、時刻は二十二時三十分。
「大分遅くなっちゃったな。って、え……?」
 目を見開きながらスマホの画面を何度も確認してから、俺は思わず言葉を失った。
 そこには、凄まじい数の着信とメールが……俺は、一瞬で血の気を引くのを感じる。震える手で確認すれば、全て成宮先生からの着信とメールだった。
「……マジかぁ……」
 俺はその場に蹲る。


 恐る恐るメールを開けば、『クリスマスくらい、早く帰ってこい』の一文が……。
 しかも、そのメールは三時間前に届いたものだった。


「だって先生、クリスマスなんて興味ないんじゃ……」
 俺は頭を抱えて低く唸る。
 それでも、今日出勤する前にも、職場でも、何か言いたそうに俺の方を見ているのは感じていた。
「はっきり言ってくれればいいのに……!」
 俺は、ガシガシと頭を掻き毟る。
「あ、プレゼント!?」
 ハッと我に返る。
「俺、何も用意してない……」
 目の前が真っ暗になって泣きたくなった。


 顔にこそ出さなかったけれど、もしかしたら成宮先生はクリスマスを楽しみにしていたのかもしれない。
 今頃いつも以上に豪華な食事を用意して、俺の帰りを待っていたりして……。
 寂しそうにスマホを眺める、成宮先生の顔が脳裏を過った。


「なんて俺は駄目な奴なんだろう」
 いつも付き合ってた彼女に、『気が利かない』とか、『優しくない』っていう理由でフラれてきた。
 それを、今まさに、俺は繰り返そうとしているなんて。
「ごめんなさい、成宮先生」
 俺は、猛ダッシュで駅へと向かった。


「やってるわけないか……」
 駅に着いて俺は大きな溜息をつく。
 こんな遅い時間に、駅に隣接しているデパートが営業しているはずがない。
 それどころか、みんな家でクリスマスパーティーとしているのだろうか。いつもに比べて、人波がまばらだった。
「どうしよう……先生へのプレゼント……」
 心底困ってしまった俺は辺りを見渡す。
 なんでもいい。ちょっと気の利いたものならば……。


「……あ……」
 少し力を抜くだけで涙が零れ落ちそうになる俺の目に、軽快な音楽と共に、明かりが煌々と灯るお店が飛び込んでくる。
「あった……千歳さんへのプレゼント……」
 俺はそのお店に、藁にも縋る思いで駆け込んだ。