朝のミーティングが終わって、回診へと向かう。
数日前から、小児科病棟のデイルームには大きなクリスマスツリーが飾られていて、色とりどりのイルミネーションがピカピカと輝いていた。
子供が喜ぶように、という配慮からだろうか。ツリーには可愛らしいオーナメントがたくさん吊るされていた。
「もうすぐクリスマスかぁ」
そんな光景を見れば、子供じゃない俺だってワクワクしてしまう。
「みんなところにサンタクロースは来るのかなぁ……」
しばらく間クリスマスツリーを眺めていれば、突然腰をパシンと強めに叩かれる。
昨夜の疲労から、力の入らない体はいとも簡単にバランスを崩して、ヨロヨロと倒れそうになってしまった。
「おっと、フラフラじゃん」
「な、成宮先生」
「相当お疲れのようで?」
「だ、誰のせいだと思ってるんですか!?」
「ふーん、俺のせいか?」
周りに誰もいないせいか、成宮先生が俺の体を受け止めてくれる。
余程ヨロヨロしている俺が可笑しかったのか、成宮先生がククッと声を出して笑った。
「だって、最後の方はゆっくり優しく抱いてやろうと思ってたのに、我慢できない誰かさんが、結局『もっと、もっと』って可愛くねだるからさ」
「…………!?」
そう、昨夜の話には続きがある。
最後の方は、俺のことを気遣ってくれた成宮先生が手加減をしてくれていたのに、あまりにも緩やかな腰の動きに物足りなくて、『お願い……千歳さん、もっと、もっと……奥……激しくして……』とねだったのだ。
更には、その後もう一ラウンド……。
思い出すだけで顔から火が出そうになる。
「昨夜は、随分激しかったなぁ」
成宮先生が俺の肩に顎を乗せて、悪戯っぽく耳打ちしてきた。
「お前、めちゃくちゃ乱れてて……本当に可愛かった」
そのまま、成宮先生が俺のお尻をムニムニと揉み始める。
「え、ちょ、ちょっと……!」
それだけで、俺の体は悔しいくらい反応してしまう。
昨夜の甘い刺激を、いとも簡単に思い出してしまった。
「はぁ……くぅ……」
ギュッと唇を結んでそれに耐えれば、少しだけ乱暴に頭を撫でられる。俺は恐る恐る閉じていた目を開けた。
「よし、終わり。ほら、回診に行くぞ」
「……え、あ、はい……」
俺はその言葉に一気に現実に引き戻される。
危ない……軽くイッてしまうところだった。雑念を振り払うために、フルフルと頭を横に振る。
成宮先生を追いかけて走り出そうとした瞬間。俺の前を歩いていた成宮先生が、突然怒ったような顔をしながら振り返った。
「葵、そんなエロい顔……俺以外の前では絶対にすんなよ?」
「はい?」
そう言い残すと、またスタスタと歩き出してしまう。もう俺の事なんか、振り向きもしない。
「……あなた、勝手過ぎるでしょう?」
俺は慌てて成宮先生の後を追いかけた。
◇◆◇◆
街中を歩けば楽しそうなクリスマスソングが聞こえてきて、葉っぱが全て落ちた裸ん坊の木が、綺麗に飾り付けられてキラキラと輝いている。
ショウウィンドウには、クリスマスプレゼントがディスプレイされていて、見ているだけで幸せな気持ちになった。
「もうクリスマスか」
つい、頬が緩んでしまう。
俺は昔から、『付き合って〇年記念日』とか、『クリスマス』とか、あまり気にしてこなかった。
言われればそれなりに対応したけど、明らかに相手とテンションの違いを感じずにはいられない。
「だからフラれてきたんかな……」
今更反省しても遅いけど、俺は少しだけ考えてはみた。
でも、そんな心配もこれからはする必要はない。
なぜなら、成宮先生もそういうイベント事に興味がないタイプらしい。
成宮先生と看護師さんとの会話を聞く限り、クリスマスはスルーして大丈夫そうだ。
俺は、今まで彼氏がいたことなんてなかったし、いい年した男同士がクリスマスをどう過ごすのかなんてわからないけど……特に気にせず通常運転でいいだろう。
「男同士って楽でいいなぁ」
女の子と違って気を使わなくて済む。
「あ、でも……クリスマスイブって先生の誕生日だっけ?」
そう、クリスマスイブである十二月二十四日は、成宮千歳様の生誕された日でもあるのだ。
クリスマスイブに誕生日なんて、どこまでも特別な人物なんだろう……と、ここまで来ると感心してしまう。
「ま、いっか。先生、そういうの気にしないタイプみたいだし」
少しだけ悩んだものの、本人が気にしないと言うんだから、素通りして大丈夫だろう……と軽く考えることにした。
「でも……ケーキくらいは買った方がいいのかな?」
その時俺は考えてもいなかった。
聖なる夜に、神の逆鱗に触れてしまうなんて……。
数日前から、小児科病棟のデイルームには大きなクリスマスツリーが飾られていて、色とりどりのイルミネーションがピカピカと輝いていた。
子供が喜ぶように、という配慮からだろうか。ツリーには可愛らしいオーナメントがたくさん吊るされていた。
「もうすぐクリスマスかぁ」
そんな光景を見れば、子供じゃない俺だってワクワクしてしまう。
「みんなところにサンタクロースは来るのかなぁ……」
しばらく間クリスマスツリーを眺めていれば、突然腰をパシンと強めに叩かれる。
昨夜の疲労から、力の入らない体はいとも簡単にバランスを崩して、ヨロヨロと倒れそうになってしまった。
「おっと、フラフラじゃん」
「な、成宮先生」
「相当お疲れのようで?」
「だ、誰のせいだと思ってるんですか!?」
「ふーん、俺のせいか?」
周りに誰もいないせいか、成宮先生が俺の体を受け止めてくれる。
余程ヨロヨロしている俺が可笑しかったのか、成宮先生がククッと声を出して笑った。
「だって、最後の方はゆっくり優しく抱いてやろうと思ってたのに、我慢できない誰かさんが、結局『もっと、もっと』って可愛くねだるからさ」
「…………!?」
そう、昨夜の話には続きがある。
最後の方は、俺のことを気遣ってくれた成宮先生が手加減をしてくれていたのに、あまりにも緩やかな腰の動きに物足りなくて、『お願い……千歳さん、もっと、もっと……奥……激しくして……』とねだったのだ。
更には、その後もう一ラウンド……。
思い出すだけで顔から火が出そうになる。
「昨夜は、随分激しかったなぁ」
成宮先生が俺の肩に顎を乗せて、悪戯っぽく耳打ちしてきた。
「お前、めちゃくちゃ乱れてて……本当に可愛かった」
そのまま、成宮先生が俺のお尻をムニムニと揉み始める。
「え、ちょ、ちょっと……!」
それだけで、俺の体は悔しいくらい反応してしまう。
昨夜の甘い刺激を、いとも簡単に思い出してしまった。
「はぁ……くぅ……」
ギュッと唇を結んでそれに耐えれば、少しだけ乱暴に頭を撫でられる。俺は恐る恐る閉じていた目を開けた。
「よし、終わり。ほら、回診に行くぞ」
「……え、あ、はい……」
俺はその言葉に一気に現実に引き戻される。
危ない……軽くイッてしまうところだった。雑念を振り払うために、フルフルと頭を横に振る。
成宮先生を追いかけて走り出そうとした瞬間。俺の前を歩いていた成宮先生が、突然怒ったような顔をしながら振り返った。
「葵、そんなエロい顔……俺以外の前では絶対にすんなよ?」
「はい?」
そう言い残すと、またスタスタと歩き出してしまう。もう俺の事なんか、振り向きもしない。
「……あなた、勝手過ぎるでしょう?」
俺は慌てて成宮先生の後を追いかけた。
◇◆◇◆
街中を歩けば楽しそうなクリスマスソングが聞こえてきて、葉っぱが全て落ちた裸ん坊の木が、綺麗に飾り付けられてキラキラと輝いている。
ショウウィンドウには、クリスマスプレゼントがディスプレイされていて、見ているだけで幸せな気持ちになった。
「もうクリスマスか」
つい、頬が緩んでしまう。
俺は昔から、『付き合って〇年記念日』とか、『クリスマス』とか、あまり気にしてこなかった。
言われればそれなりに対応したけど、明らかに相手とテンションの違いを感じずにはいられない。
「だからフラれてきたんかな……」
今更反省しても遅いけど、俺は少しだけ考えてはみた。
でも、そんな心配もこれからはする必要はない。
なぜなら、成宮先生もそういうイベント事に興味がないタイプらしい。
成宮先生と看護師さんとの会話を聞く限り、クリスマスはスルーして大丈夫そうだ。
俺は、今まで彼氏がいたことなんてなかったし、いい年した男同士がクリスマスをどう過ごすのかなんてわからないけど……特に気にせず通常運転でいいだろう。
「男同士って楽でいいなぁ」
女の子と違って気を使わなくて済む。
「あ、でも……クリスマスイブって先生の誕生日だっけ?」
そう、クリスマスイブである十二月二十四日は、成宮千歳様の生誕された日でもあるのだ。
クリスマスイブに誕生日なんて、どこまでも特別な人物なんだろう……と、ここまで来ると感心してしまう。
「ま、いっか。先生、そういうの気にしないタイプみたいだし」
少しだけ悩んだものの、本人が気にしないと言うんだから、素通りして大丈夫だろう……と軽く考えることにした。
「でも……ケーキくらいは買った方がいいのかな?」
その時俺は考えてもいなかった。
聖なる夜に、神の逆鱗に触れてしまうなんて……。