お風呂から出た俺を見た先生が、人差し指をクイクイっとさせて『こっちに来い』というジェスチャーをしている。
 それに素直に従い、ソファー座っている成宮先生の前に膝を抱えて座り込んだ。床には、きちんとクッションまで置かれている。俺が座るのを待ち構えていたかのように、ドライヤーの温かい風が当てられた。


「ったくお前は、いつも髪ビチャビチャのまま寝ちまうから」
「あ、すみません……先生」
「てかさ、お前。プライベートで先生はやめろって言ってるだろうが」
「あ、す、すみません」
「それに謝り過ぎだし」
 文句ばかりいう割には優しい手つきで髪を撫でてくれる。ドライヤーの温かい風と、成宮先生の大きな手が心地よくて……つい居眠りをしそうになってしまった。
「千歳さんの手……大きくて、優しくて気持ちいい……」
 自分の髪を優しく掻き上げていた手をそっと掴み、無意識に頬擦りをした。
「俺は……この手が大好きです……」
 それからそっと唇を寄せる。夢心地ですごく気持ちいい。体と心がふわふわして、蕩けてしまいそうだ。


「葵、可愛い」
「んッ……」
 ドライヤーの風が止んだ瞬間、少しだけ強引に上を向かされて、成宮先生の唇と自分の唇が重なった。
「ふぁ……んッ……」
 苦しいくらいに唇を奪われて、俺は必死に息を整えようと口を開いた。そんな無防備な俺の口内に、成宮先生の熱い舌が侵入してくる。温かな舌を夢中で受け入れながら、成宮先生の体にしがみついた。
「葵……もうトロトロじゃん? そんなに俺のキス好き?」
「うん……好き……千歳さんのキス、大好き……」
「ふふっ。エッロ。可愛いなぁ」
 俺が唯一、成宮先生に誉められる事と言ったら、『エロい』と『可愛い』だけ。しかも、こうやってイチャイチャしている時限定だ。
 だから、正直戸惑いは隠せないし、不安にもなる。
 俺は、こんな事をするためだけに成宮先生の傍にいるんだろうか……って。


「ならさ、葵。もっとキスしてって、おねだりしてごらん?」
「へ?」
「言ってごらんよ、このエロい唇で」
「いや……恥ずかしい」
「こら、逃げんなよ」
 成宮先生から顔を背けようとすれば、逆に逞しいその腕に捕まってしまった。
「言わなきゃ、これでもうお終い」
 そう意地の悪い声で囁かれながら、洋服の上から胸の突起をなぞられる。その焦らされるような甘い刺激に、体がピクンと反応した。
「ほら、おねだりは?」
「んあっ! やぁ……」
 耳元で甘く囁かれた俺の体は、少しずつ熱を帯びて、全身が成宮先生を求めだしてしまった。
 こうなってしまえば、悔しいことに俺に勝ち目なんてない。白旗を振りながら、「あたなが欲しい」と求める以外に方法なんてないのだ。


「もっと……もっと、キス……千歳さん……」
「ん?」
「お願い……もっともっと虐めて?」
「大変良くできました」
 満足そうに微笑む成宮先生に、再び口付けられる。舌を絡ませて、唇を吸われて。敏感な口内を遠慮なく犯されていった。
「あ、あん……ふぁ……んッ……」
 口の端からはだらしなく涎が流れ、呼吸さえままならない。逃げても執拗に唇を追いかけられて捕まってしまう。
 二人の唇の重なる音が、やけに鼓膜に響いて……どんどん体が熱く火照っていくのを感じた。


「ここもこんなに熱くなって……」
「ヤダ、そこは……止めて……」
「こんなにして、葵はエロいなぁ……」
 下着に手を差し込まれ、俺自身を直接撫でられる。細くて長い成宮先生の指が、自分自身に触れる感覚に、無意識にブルブルっと身震いをした。
「いいからこのまま俺に身を委ねろよ」
「でも、でも、恥ずかしい……」
「大丈夫だ。葵は十分可愛いから」
「……でも、でもぉ……」
「でも、じゃない」
 耳にチュッと口づけられて、どんどん絶頂を追い立てられる。俺はもう、成宮先生に体を委ねることしかできなかった。
 気持ちいい、気持ちいい……。
 心臓が破れてしまうのではないかというほど拍動を打ち、ビクンと体が大きく跳ね上がる。
「うッ、あッ!」
 短い悲鳴を上げながら、俺は成宮先生の手の中で達してしまった。


 はぁはぁ……と荒い息を何とか整えようとしても、強い睡魔に追われて、どう頑張っても瞼が下がってきてしまう。
 冷めやらない絶頂感から、現実に戻ってくることができなかった。
「葵、可愛かったよ」
 頬を伝う涙が、成宮先生の唇に吸い込まれていく。
「千歳……さん……」
「おやすみ、葵」
 成宮先生の笑顔を見て、「なんだ……そんな優しい顔もできるんじゃないか」と少しだけ驚いてしまう。
 だって、いつも成宮先生は厳しくて、叱られてばかり。本当に意地悪で、優しくなんてない。そう、なぜか俺にだけ意地悪なんだ。
 でも、俺だって、先生に優しくされたいし褒められてみたいって思わない訳じゃない。
 俺だって、俺だって……。


「千歳さんの意地悪……」
 ふわりと身体が宙に浮かぶ感覚を覚えながら、俺は意識を手放した。