そっと唇と唇を重ねれば、柔らかくて温かくて……その感覚に、背中を甘い電流が走る。
「葵、葵……」
 熱にうなされたように名前を呼ばれながら、深くて甘いキスを交わす。
 舌を絡め合う濃厚な口付けに、頭の芯が麻痺してくる感覚。
「気持ちいぃ……」
 思わず零れ落ちた言葉。


 成宮先生が俺のスクラブをたくし上げれば、期待を含み、膨らみはじめた胸の飾りをいとも簡単に見付けられてしまう。
 早く触って、舐めて欲しい……胸を高鳴らせながら、成宮先生を潤んだ瞳で見上げた。
 突起にスッと指が触れただけで、「あぅ……ふぁ……」と、堪えきれずに、甘い声が漏れてしまう。
 もう片方の乳首は指先で、摘まんだり潰したり……すっかり硬く色づいた果実を、成宮先生に弄ばれてしまった。


「お願い、舐めて……」
「ん?」
「乳首、舐めて……」
 もっと違う刺激が欲しくて、成宮先生の顔を抱き締めて、自分の胸の突起へと誘導する。
「お願い……舐めて……あ、あん……」
 次の瞬間、温かくて柔らかい成宮先生の舌が、チロチロと俺の乳首に触れた。ピクンと体を振るわせれば、卑猥な音をたてて吸われてしまう。


「あぅ、あ、んぁっ……き、気持ちいい……」
「気持ちいいの?」
「うん……乳首舐められるの好き……お願い、もっと……」
「お前はさぁ……」
 成宮先生が大きな溜息をつきながら、俺を軽く睨み付けてくる。
「葵がこんなに可愛いから、俺は我慢ができねぇんだよ……ってそろそろ時間か……」
「ん? 時間……?」
 

 俺が虚ろな目で時計を見れば、あと十分で柏木が来る時間だ。
「葵、時間ないからもう挿れていい?」
「はい。好きにしてください……」
 悔しいくらいに感度のいい俺は、大抵キスと乳首の愛撫だけで十分トロトロになってしまう。
 結局は成宮先生に育てられた体なのだ。


「じゃあ挿れるからな。よく解してないから痛かったら言えよ」
「大丈夫だから。きて……早く……千歳さんが欲しい」
「葵……葵、本当に可愛い」


 成宮先生は自分のズボンを膝まで下ろし、俺の足を抱え上げる。その体勢が恥ずかしくて、思わずギュッと目を瞑った。
 俺の体は成宮先生を求めて熱く昂る。
「葵、可愛い」
「千歳さん……ん、あッ!」
 成宮先生を全身で受け止めて……俺たちは夢中で体を重ねた。
 お腹の中をゆるゆると擦られる感覚に、俺はブルッと身震いをする。
「んんッ、気持ちいい……」
「本当に可愛いな。だけど、声は抑えろよ」
「はい……。でも、気持ちいい……千歳さん……千歳さん……気持ちいい」


 気持ち良過ぎて声を抑えることができないのに、それ以上にキスがしたくて……俺達は、タガが外れたかのように口づけを交わした。
 ここが職場だとか、勤務時間だとか……そんなことなど全てを忘れて、キスに没頭する。酸素を求めて逃げ惑う俺の唇を追いかけて、成宮先生が更に深く唇を押し当てた。
「んん……苦しい……」
 首を振って「いやいや」をすれば、「可愛い」って成宮先生が目を細める。その笑顔に涙が溢れそうになった。
 成宮先生の全てが甘くて、頭の中が陶酔していく。
 普段は俺にだけ素っ気なくて愛想がないくせに、こんなときは大切に扱ってくれる。そのギャップに戸惑ってしまうこともあるけれど、それでも大好きだなって思う。
「大好き」
 わざと成宮先生に聞こえないように小さな声で囁く。だって、聞かれてしまったらなんだか恥ずかしい。
 それでも、大好きっていう思いが強すぎて、心の中から溢れ出してしまった。


 その時、俺は気付いてなんかなかった。
 柏木と約束していた時間がとっくに過ぎていたことを。そして、医局のドアの鍵を閉めていなかったことも。


成宮先生に、俺はどんどん絶頂へと追いあげられる。
「はぁ……あッ」
 二人の熱い吐息が、明るく照らされた医局に響き渡り……。
 愛しい恋人と、肌を合わせることができる喜びを噛み締めていた。
 だから、俺は何も見えていなかった。