「どこ行くんだ?」
俺が成宮先生の傍から離れようとした瞬間、腕を掴まれる。
「え?トイレですけど」
あまりの過保護ぶりに可笑しくなった。
恐らく極度の方向音痴の俺を心配してくれてるんだろう。
確かに、こんな広いとこで成宮先生と離れたら完全にアウトだ。
「すぐ戻ってくるから、そこで待っててください」
「おう」
そう言い残して成宮先生から離れた。
トイレから戻る途中、ワゴンのお土産屋さんに目が止まりちょくちょく寄り道をしながら成宮先生を探す。
千歳さん、どこだ……千歳さん……。
「あっ、いた!」
成宮先生を見つけたから急いで駆け寄ろうとしたら、成宮先生と若い女の子の笑い声が耳に飛び込んできた。
目を凝らせば若くて可愛い女の子数人に囲まれて、笑顔を見せる成宮先生。頭なんか撫でてやってる。
女の子は女の子で、嬉しそうに悲鳴を上げながら頬を赤らめていた。
「あれって、逆ナンってやつか……」
なんだよ、デレデレ鼻の下なんか伸ばして。
面白くない。
大体、なんであの人はあんなにモテるんだ。
唇を尖らせながら成宮先生に背を向けて一人で歩き出す。
俺が戻ってきたことに気がついて、さっさと追いかけてきてほしい……そんな子供みたいな、くだらないヤキモチ。
早く、俺が戻ってきてることに気付いてよ。
いつまでも、成宮先生が追いかけてくる気配を感じられずに不安になって振り返れば、さっきまでいた場所にもうその姿はなかった。
「え?千歳さん、どこ行ったの?」
更にパレードが始まるらしく、俺達の間に広い広い通路が出来上がっていて。人の流れに押されて、どんどん行きたい方向とは別の場所に流されて行ってしまう。
パレードが始まる前の陽気な雰囲気と音楽に取り残されてしまった。
「千歳さん、どこ……?」
咄嗟に電話しようと、ポケットをまさぐって青ざめる。
俺のスマホは成宮先生が持っているリュックサックの中だ……。
「ヤバい……完全に千歳さんを見失った……」
不安で心細くて泣きたくなる。
気づけば、聞き覚えのある音楽が大音量で流れパレードが始まってしまった。
そんなパレードを、本当に大勢の人達がキラキラした瞳で見つめていて。たくさんの可愛らしいキャラクターに手を振っている。
その光景に、夢の国の力を思い知らされた。
「ド〇ルドォ🪿……お前、成宮先生を見かけなかったか?」
こちらに向かって手を振りながら、お尻を振るド〇ルドダックに問いかけた。
今自分がどこにいるのか、どこに行ったらいいのかも全然わからない。
バカみたいなヤキモチなんか妬かないで、素直に成宮先生のところに戻っておけば良かった……って心底後悔する。
いつもそう。
成宮先生のことが好き過ぎて、いらないトラブルを巻き起こす。付き合い始めた頃から全然進歩なんてしてない。
キラキラ輝くパレードを呆然を見送る。
パレードが終われば、帰って行く人も多いみたいで一気に人の波が消えた。
人は少なくなったけど……。
「千歳さんがいない……」
俯きながらトボトボと歩く。そして、なんだか悲しくなる。
綺麗にライトアップされたアトラクションが滲みそうになったから、必死に我慢した。
「どこに迎えばいいんだろう……」
これじゃあ、親からはぐれた子供じゃん。自分が情けなかった。
「葵!!」
突然肩を物凄く強い力で掴まれて、力任せに振り向かされる。
視線の先には、肩で息をする成宮先生がいた。余程焦っていたのだろうか、珍しく汗びっしょりかいている。
「千歳さん!」
安心して一気に脱力してしまい、縋り付くように抱きついた。
もうお互いが人目なんか気にしていなかった。
そんな俺を、成宮先生も強く抱き締め返してくれる。これじゃあ、本当にようやく母親を見つけた子供みたいだ。
「バカ葵!どこ行ってたんだよ。あんなに俺から離れるなって言っただろうが」
「ご、ごめんなさい……」
明らかに自分が悪いから素直に謝る。
だって成宮先生、絶対に怒ってる。
意地が悪いし好きな子ほど虐めたい人だけど、普段は怒らない成宮先生だから、怒った時は本当に怖い。
「もういいよ、帰るぞ」
俺の腕を掴んでさっさと歩き出す。
あまりの剣幕に、さすがの俺も何も言い返せず黙って成宮先生の後ろを歩いた。
なんでこんなんになっちゃったんだろう。俺、メチャクチャ楽しみにしてたのに。
楽しみで楽しみで……泣きたくなるくらい嬉しくて。
誰も通らないような、細い通路で立ち止まる。そこは、薄暗くて木の茂みになっていた。
涙が溢れてきたから、今明るい所に行くわけにはいかない。
成宮先生の手を、勢いよく振り払った。
「やだ。まだ帰りたくない」
手の平で涙を拭って、駄々を捏ねる。
「千歳さんとディ〇ニーランド行くの凄く楽しみだったから……だから帰らない」
成宮先生を見つめて、ギュッと手を握り直す。
俺反省するから、謝るから……だから怒らないで……。
「怒ったら駄目です……俺、いい子にしますから……怒らないで……帰らないで……お願いだから……」
ねぇ、成宮先生。いつもみたいに笑ってください。



