あなたのお気に召すままに


 成宮先生が運転する車の助手席で外の景色を眺めれば、思わず出てしまう鼻歌。
 嬉しくて、楽しくて仕方ない。


 俺は仕事を早く終わらせるために、早起きしてパソコンと睨めっこだ。
 行きたい場所はもう決まってる。
 行ったら何しようか……って考えるだけで、何だかソワソワして落ち着かない。
 早く、早く行きたい。
 まるで遠足前の子供みたいだけど、楽しみなんだから仕方ない。


 成宮先生が眠そうな目をこすりながら起きてきて、俺の横にちょこんと座る。
 断りもなく、テーブルに置いてあった飲みかけのコーヒーを飲み干したあたりで声をかけた。


「あ、あの……千歳さん、たまにはデートしませんか?」
「ん?」
 まだ寝惚けているのか、きちんと俺の話を理解しているのかさえ怪しい。
「デートてすよ、デート!最近俺達、2人きりで出掛ける機会なんか全然なかったじゃないですか?」
 少しだけ俯いて、大袈裟に悲しそうな顔をしてみせる。成宮先生は優しいから、俺を甘やかさずにはいられないはずだ。
 申し訳ないけど、その優しさを利用させてもらうことにした。


「たまには2人でデートしたいです……」
 成宮先生の洋服の裾を引っ張って、甘えた声を出す。
「ねぇ、成宮先生……お願い」
 そんな俺を見て、成宮先生がそっと溜め息をつく。
「そんな可愛くねだられたら、嫌って言えないだろうが」
 困った顔をしながらも、首を傾げて微笑んでいる。
「ありがとうございます。千歳さん」


 いつも忙しくて疲れているはずなのに、俺のワガママを聞いてくれて……。
「千歳さん、大好き」
 成宮先生にギュッと抱きつく。
 自分のワガママを聞いてもらえたことが、申し訳なく感じたけど……それ以上に嬉しかった。


 で、どこに行くの?って話になって俺が真っ先に提案したのは。
 ディ〇ニーランド🐭!!


 何年か前の年末に、2人きりで行ったきりで行ってなかったから。ずっとずっと行きたかった。
 ようやく念願叶って成宮先生とデートできるし、ディ〇ニーランドにも行ける。テンションはどんどん上がって、空も飛べそうなくらい嬉しくなってしまった。


「俺あそこ苦手なんだよなぁ。人がウジャウジャいるし、待ち時間長ぇし……」
 前髪を搔き上げながら大きな溜息をついたけど、渋々出掛ける準備を始めてくれる。
 俺は嬉しくて、成宮先生の腕に飛び付いた。


 駐車場に着けば、いつものリュックサックに色々必要な物を入れたりと準備してるから、そのバックに自分の財布とスマホも入れさせてもらう。
 俺は両手が空いているから、心置きなくポップコーンを食べることができる。
「行きましょう」
「はいはい」
 子供みたいにはしゃぐ俺に、苦笑いを浮かべながら成宮先生がついてくる。


 車から降りたら直ぐに広がる夢の世界。
 軽快な音楽に、宝石みたいなイルミネーション。  
 もうすぐハロウィンだからだろうか……カボチャの飾り付けに、否応なしにテンションが上がっていく。


「嫌々来たけど、来たら来たでテンション上がるな」
 成宮先生も一気にその世界に吸い込まれたようで、興奮を隠しきれない。そんな顔を見れば俺まで嬉しくなってしまう。
 本当に不思議な空間だよな、ってつくづく感じた。


 チケットを待ちきれない気持ちを押さえて買えば、夢の国はすぐ目の前だ。
「千歳さん、早く早く!」
 成宮先生の腕を掴み、お目当てのアトラクションまで全速力で走った。
 アトラクションの待ち時間には色々な話をして、アトラクションに乗れば子供みたいにはしゃいで……バカみたいにテンションが上がってしまい、腹を抱えて2人で笑った。


 本当なら手でも繋いで歩けたらいいのにな。
 それができないことが、少しだけ寂しかった。