あなたのお気に召すままに


「千歳さん、エッチしますか?」
 甘く甘く誘惑してみる。
 普段俺から誘うことなんてないから、成宮先生が驚いた顔をした。
 俺は恥ずかしくて、顔から火が出そうになる。
「お前から誘ってくれるなんて本当に嬉しいけど、チュウしたから仕事頑張ろうね」
 額にチュッとキスをされた後、離れて行ってしまう。
 突然なくなってしまった温もりが恋しくて、俺は唇を尖らせた。


「じゃあ、ご飯が食べたいです!お腹空きました!クリームコロッケ食べたいです!」
 手足をバタバタされば、子供かよ……と少しだけ呆れた顔をする。でも、そんな態度さえ愛しさに溢れていることを、俺は知っていた。
「じゃあクリームコロッケ作ろうか?」
「野菜スープも飲みたいです」
「お前は……本当に子供みたいだな」
「だって寂しいんです、俺は……たまにはイチャイチャしたい……」
「はいはい。じゃあ、デザートは葵かな?」
「そんな余裕ないくせに、期待しちゃうようなこと言わないでください」
「そんなに不貞腐れんなよ。ほら、行くぞ」
 こんなやり取りをしていれば、作業なんて中断してしまい。あ~あ、って思う(明らかに自分が悪いんだけど)。


 でも、こんなに頑張ってるんだから、たまには恋人らしいことがしたい。
 頭を悩ませる。
 ない頭を捻って考えてみる。結果。


 そう言えば、最近デートらしいデートなんかしてないことに気付いてしまう。
 デートかぁ…。
 うん、メチャクチャ楽しそうだ。
 明日は二人共休み、仕事もチャッチャッと片付ければ夕方から出掛けられるはずだ。
 家でも職場でもいつも一緒だけど、2人で出掛けるなんて滅多にない。考えただけでワクワクしてくる。
 嬉しくて、楽しみで成宮先生に抱きついた。


 凄く好き。


 少ししたら「飯ができたぞ」って呼ばれたからテーブルに向かう。
 そこには揚げたてのクリームコロッケに野菜スープ。デザートにはプリンまである。
「いただきます!」
 嬉しくなって口いっぱいに頬ばれば、
「たくさん食べな?」
 って嬉しそうな顔をしながら頭を撫でられてしまう。


 何をしても勝てない。
 でも……それが幸せなんだ。


 お腹もいっぱいになって、デザートのプリンも平らげてしまえば心も体も満たされていく。
「千歳さん、捕まえたぁ」
 食器を洗ってくれている成宮先生を背中から抱きしめる。温かくて逞しい背中に額を押し当てた。
「千歳さん、大好き」
 自然と口をつく言葉。
「俺も好きだよ」
 体の向きを変えて正面から抱き締めてくれたから、ギュッとしがみつく。


 体を重ねられないならキスしてほしい。
 もっともっと、俺の唇が腫れ上がるまで。


 成宮先生がお風呂から出たときには、俺はすでに布団にくるまって夢の中だった。
「可愛い」
 優しい囁きと共に唇にフワリと柔らかくて温かいものが触れる。
「おやすみ、葵」
 返事を返すことはできなかったけど……俺は幸せな夢を見ていた気がする。

 
 抱き締めて腕枕をしてもらう。
 ドライヤーが面倒くさかったから髪はまだ湿っていたけど、そんなことは構わず抱き締めてもらえたことが嬉しい。
「葵の体温が心地いいなぁ。可愛い葵が寝てる間に誰かに連れ去られないように、俺の腕の中から離れないで……」
 夢うつつの中、耳元で優しい囁き声が聞こえた。


 何か特別なことなんかしてないのに、成宮先生と一緒にいられることが幸せで……とっても特別な1日に感じてしまう。
 成宮先生の寝息を感じながらふと思う。
 あぁそう言えば、明日(既に今日)デート行こうって言うの忘れてた。


 目を覚ましたらちゃんとデートに誘わなきゃ。
 喜んでくれるかな?
 面倒くさいって言うかな?


 おやすみなさい。