あなたのお気に召すままに


 翌朝そのカードを成宮先生に渡すと、頬が薄く桃色に色づく。
「お前、本当に物欲がないんだな?」
「はい。俺は成宮先生と一緒にいられるだけで幸せですから」
「バァーカ」
 なんて憎まれ口を叩かれてしまう。
もうこの人は、本当に可愛くないんだから。
 でも、俺は見逃さなかった。
本当は成宮先生が、嬉しそうな顔をしていることを……。


「じゃあ、お前にはこれ」
「あ、ありがとうございます」
「お前は俺のサンタクロースなんだろう? ちゃんと願いを叶えろよな?」
「はい」
 そうつっけんどんに言った後、カードを俺に突き付けて背を向けてしまう。
 相変わらずドライだな……なんて思っていると、成宮先生がポツリと呟いた。


「来年は、一緒にクリスマスを過ごせるといいな」
「はい。明日の夜、少し遅れちゃったけど、クリスマスと成宮先生のお誕生日のお祝いをしましょうね」
「面倒くさいけど、仕方ない。付き合ってやるよ」
 意地っ張りなこの人の、精一杯の愛情表現が堪らなく愛しい。
 俺は、この人のことが大好きだなって思う。


「そんなことより外来が始まるぞ」
「はい、今行きます!」
 俺は成宮先生の後ろについて歩き出す。
「なぁ、葵。そのカード、別に深い意味はないからな」
「え? どういうことですか?」
「だから、あんまり深く考えるなってこと!」
 珍しく頬を赤く染めた成宮先生が、さっさと外来に向かって歩いて行ってしまう。


「ちょ、ちょっと、成宮先生待ってくださいよ!」
「葵は、歩くのが遅いんだよ。あ、足が短いから仕方がないか」
「はい?」


 俺はその言葉に、自分の耳を疑ってしまった。
 前言撤回!
 やっぱりこの人は可愛くない!


「ほら、行くぞ」
 そう優しく微笑みながら、俺のことを振り返る。それから少しだけ、ゆっくり歩いてくれる。
そんな風に優しくされると、なんでも許せちゃうから不思議だ。
 だから、そう。あなたのお気に召すままに……。


 でも、成宮先生が俺にくれたカードにはなんて書いてあったと思う?
 みんなにだけ、特別に、こっそりと教えてあげるね。


『葵と、ずっとずっと一緒にいたい』


 みんな、メリークリスマス‼
 素敵なクリスマスを過ごしてね……。

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