あなたのお気に召すままに


 そうして迎えた、クリスマスイブ。


 朝一番に俺は飛び起きて、まだ寝ている成宮先生に抱き着く。
 昨夜は誕生日になる瞬間に結ばれよう! なんてロマンティックな考えでベッドにもつれ込んだら、想像以上に燃え上がってしまい……。
 気づいたら十二月二十四日になっていた。
 喘ぎ過ぎて声はガラガラだし、体は怠いけど、年に一度のお誕生日だから元気よくお祝いしよう! と、俺は張り切っていたのだ。


「千歳さん、お誕生日おめでとうごいざます!」
「あー、うん。ありがとう」
「千歳さんにとって、いい一年になるといいですね!」
「わかった、わかった。お前、朝から元気すぎるだろう? ちょっとうるさい」
「はぁ?」


 せっかく誕生日をお祝いしようと頑張っていた恋人を見て、この人は何も感じないのだろうか?
 うるさいって……。それはないでしょ?
 臍が曲がってしまった俺は、不貞腐れたまま出勤することとなる。
 それを見た成宮先生が「面倒くせぇ」と顔を顰めていたのが、更に気に入らなかった。


 朝から気分は最悪だったけれど、病棟のクリスマス会が始まった瞬間。朝起きた嫌なことが、全部吹き飛んでしまう。
 クリスマス会で、子どもたちの弾けるような笑顔を見ることができたのだ。
 俺は真っ赤な衣装に白い髭をつけて、小児病棟に入院している子どもたちに、プレゼントを配って回った。どの子もとても嬉しそうで、その笑顔が俺へのプレゼントのように感じられた。
 そんな俺のことを成宮先生は楽しそうに見ていたけれど、俺が小児病棟に来るまでは、成宮先生がサンタクロース役をやっていたらしい。
 俺が成宮先生からサンタクロース役を引き継いだ年には、入院期間の長い子に、『今年はイケメンのサンタさんは来ないの?』と聞かれたことを思い出す。


(楽しかったなぁ)
 医局に戻った俺は多幸感に満たされる。
「メリークリスマス!」
 子どもたちの嬉しそうな顔が目に浮かぶ。
 本当なら自宅でクリスマスを迎えることができればいいんだけれど、それでも十分クリスマス気分を満喫できだだろう。


 そして俺の恋人であるサンタクロースは「じゃあ、お先に」と、仕事が片付くとさっさと帰ってしまった。
 別にプレゼントを期待していたわけではないけれど(俺も用意してないし)、少しだけ寂しかった。
 もう少しだけ、一緒にいたかった……。
「誕生日おめでとうございます」くらい、ゆっくり言いたかったなぁ。
俺は唇を尖らせる。


「あ、カード……」
 その時俺は、スクラブのポケットに入っていたカードのことを思い出す。
 ブーツの形をした、可愛い手作りのカード。
 看護師さんや保育士さんの優しさが伝わってくるような気がする。
「ん-、なんて書こうかな?」
 俺は首を傾げて考える。
 明日の朝、このカードにサンタクロースへの願い事を書いて、成宮先生と交換することになっている。
 もともと物欲のない俺が欲しい物は、ゲーム機だったり、ポ〇モンカードくらいだ。
「あ、指輪……」
 ふと思いついたもの。
 自分の左手を天井にかざす。
 ペアリング……。欲しいだなんてねだったことはないけれど、憧れはある。
 でも、成宮先生が指輪なんてつけていたら、病院中がひっくり返るほどの大騒ぎになることだろう。しかも、ペアリングの相手が俺だとわかったら、更に騒ぎになってしまう。


 ちょっと前に、「いつか、買ってやるから」と成宮先生に言われたことがあるけれど、きっとその指輪は、俺の想像している値段より、一体いくつ『0』が多いのだろうか?
 そういうことを具体的に考えると、なんだか照れくさくなってしまう。
 でも、すごく楽しみだ。


 俺はペンを執るとカードに願いを書き始める。
 指輪とか、旅行に行きたい、なんていうのもいいけれど、俺の本当の望みはそんなものじゃない。
 形のあるものなら、頑張ってお金を稼げば手に入るだろう。
 でも、俺が本当に欲しいものは、目には見えないもの……。
 だからこそ、欲しいと思うし、大切にしたい。


『ずっとずっと、成宮先生と一緒にいられますように』


 ねぇ、俺の願いは、恋人であるサンタクロースに届くかな?
 届くといいなぁ……。
 だって、俺はずっと成宮先生と一緒にいたいから。
 お願いします、サンタさん。俺の願いを叶えてください――。