「千歳……」
「ん? なんだ?」
「……千歳……お願い……我慢できな……」
知り合って初めて呼び捨てで名前を呼んだことに、異常なまでに興奮する。ただ、名前を呼んだだけなのに……。
「お願い……千歳……千歳が欲しい……」
「いい子だな、葵」
満足そうに微笑んだ成宮先生に、そっと口付けられる。
「入るぞ……」
「んッ、あ……」
成宮先生が少しずつ入ってくる感覚に、体が甘く痺れ震えて足がカタカタと音をたてて震える。あまりにも強い快感に、ギュッと成宮先生にしがみついた。
「やべぇ、めちゃくちゃ興奮した」
そんな俺を、成宮先生もギュッと抱きしめてくれる。
本当に密接した状態のまま、ズンッと一気に成宮先生に突き上げられた。
「あッ! 深、い……あ、あッ……」
お腹の最奥を抉られるような感覚に眉をしかめてしまうけど、一番の気持ちいいとこを突かれる度に、甘ったるい声がとめどなく口から溢れ出す。
駄目だ、声、止められない……。
成宮先生の顔を自分のほうに向かせ、口付ける。
「千歳、大好き」
「わかってるよ、バァカ」
思わず口をついた言葉に、俺を見つめる成宮先生が目を細めた。
「はぁ……気持ちいい。んぁッ!」
次から次に口から溢れる歓喜の声に、成宮先生が満足そうに笑う。
「本当に気持ち良さそう。よかった」
もう一度キスをされて、強く抱き締めてもらう。やっぱり最後は抱き締めてもらいたい……俺の願いを、ちゃんとわかってくれてる。
それが堪らなく嬉しい。
「よっぽど興奮してんだな? 今日の葵……乱れ方が半端じゃねぇ」
「わかんないけど散々焦らされて……千歳って呼び捨てで呼んだら……」
「千歳って呼んだら興奮したんだ?」
「した……めちゃくちゃ興奮した……」
成宮先生の動きがより激しくなれば、快感に押し潰されそうになる。
夢中で抱き合い、成宮先生が短い悲鳴をあげた瞬間……俺は、体内に温もりを感じた。
◇◆◇◆
朝の眩しい日差しに目を覚ます。夏の日の出は早くて、五時だっていうのにもう昼間みたいに明るい。
体は凄く怠くて、散々喘いだせいか喉がヒリヒリする。今日が休みで良かった……と心の底から安堵した。
隣を見れば、穏やかな寝息をたてて眠っている成宮先生がいる。俺はギュッと抱き締められたまま眠っていたらしい。
ずっと抱き締めくれてたんだ……そう思えば擽ったくなった。
「千歳……」
そっとサラサラの前髪を触る。
「千歳、大好き」
ポツリ呟けば、目の前で寝ていた男の瞳がパチッと開かれた。
あ、また狸寝入りだったんだ……そう思った俺は眉を顰める。
「呼び捨てなんて、随分出世したじゃん?」
「え?」
成宮先生の髪を撫でていた手をギュッと握られて、いとも簡単に組み敷かれてしまった。
「だ、だって昨日は……」
「昨日は昨日。抱き合ってるときは特別なの」
「……そんなぁ。ご、ごめんなさい」
「駄目だ、許さねぇよ」
耳元で囁かれるだけで、昨夜の余韻が残る体は簡単に火照って行った。
「ごめんなさい」
ギュッと目を瞑って謝ることしかできない。
所詮俺は、あなたのお気に召すままに動くしか、方法なんて残されてないのだから……。
「じゃあ、またねだってみろよ?」
「……でも……」
悪戯っ子のように笑う成宮先生が、俺の顔を覗き込んでくる。
「『千歳、また抱いてって』言ってみな?」
「そんなぁ……」
「ほら、葵……」
「ふぇ……意地が悪い……」
あまりにも意地の悪い成宮先生に涙が出てくる。
本当にあなたは、どこまでまも自分勝手でワガママで……俺のことを玩具くらいにしか考えていないはずだ。
なのに、俺を見下ろす成宮先生は悔しいくらいにかっこいい。
「葵……お前、本当に可愛いな。愛してる」
俺の涙を唇で掬いながら囁かれても、成宮先生の腕の中から必死に逃げ出そうとしていた俺には、そんな言葉は届くはずなんてない。
「可愛い」
もう一度、今度は聞こえるように囁かれて、俺は成宮先生を見上げる。
その表情は本当に幸せそうで、なんでだろう……胸が締め付けられる。
「千歳……もっと言って?」
「ん?」
「千歳……可愛いって、もっと言って?」
「はいはい。葵のお気に召すままに」
そのままフワリと抱き締められて、優しく唇が重なる。昨夜キスし過ぎた唇は、ヒリヒリとして腫れぼったかった。
そんな成宮先生に、朝から美味しく召し上がってもらったなんて……言うまでもないでしょ?



