あなたのお気に召すままに


 僕の名前は『ライ』。ハスキー犬です。
 でも、ハスキー犬にしては珍しい茶色の毛並みをしている。


 雷の鳴る夕立の日に、成宮智彰君に拾ってもらったんだ。
 僕は成長して大きくなったら、飼い主さんの邪魔になってしまって……スーパーの近くにあるフェンスに繋がれたまま、何日も何日も放っておかれた。
「いつになったら買い物が終わるのかな?」
 そう思ってずっと待ってた。鳴かなかったし、暴れもしなかった。お腹が空いたのも我慢していい子にしてたのに、智彰君が僕を見た瞬間、
「お前馬鹿か?いつまでここで待ってんだよ?」
 泣きそうな顔で、フェンスに縛ってある綱を解いてくれた。


 そのまま、智彰君のお家に連れて行ってもらって、一緒に住むことになったんだ。
 智彰君のお家に着いた時には雨も上がって、空には虹がかかってた。
 あの日から、僕はずっと智彰君と一緒にいる。
 僕は智彰君が大好きなんだ。


 でも智彰君は時々お友達と旅行に行くから、僕は智彰君のお兄様の家に預けられることがある。
 名前は千歳さん。
 智彰君もイケメンだけど、千歳さんはまた違ったタイプのイケメン。智彰君がかっこいいんだとしたら、千歳さんは綺麗っていう雰囲気。頭も凄く良さそうだ。
 ただ、物凄く怖そう。あの目で見つめられると、ゾワゾワッて毛が逆だっていくのを感じる。


 それでも、
「ほら、飯だ。食え」
 と出される食事はとっても豪華で……。時々頭を撫でてくれながらニコッと微笑まれれば、本当にかっこよくてドキドキしてしまう。
 ぶっきらぼうで一見冷たそうに見えるけど、本当はとっても優しいのを知ってる。


 そんなある日、時々知らない人が千歳さんの家に遊びにくるようになった。
 その人の名前は水瀬葵君。
 でも葵君が千歳さんの家にいると、智彰君は凄く嫌がるんだ。
 葵君はとても優しそうなのに、なんでだろう……。


 今日から一週間、智彰君は将来立派なお医者さんになるために、アメリカっていう所にお勉強に行くらしい。だから、また僕は千歳さんの所にお泊まりなんだって。


 千歳さんの家に来てみれば、やっぱり葵君が遊びに来ている。嬉しくて葵君の所に駆け寄ろうとした瞬間、智彰君に抱き抱えられてしまう。
 それから、智彰君に耳打ちされた。
「いいか? ライ。あの二人をよーく見張っててくれよ!」


 ん?どういうこと?


 僕は智彰君の言いたいことがよくわからなくて、首を傾げる。
 見張るって何を見張るの?
 一生懸命考えてみたけど良くわからなくて……。
「頼むぞ、ライ」
 そう囁く智彰君の顔があまりにも辛そうで、僕の胸も締め付けられた。


 良くわからないけどわかったよ! 僕に任せて!


 僕は精一杯シッポを振りながら、智彰君の頬をペロッと舐めた。