衝撃的な見出しが、ネット上に散乱していた。大手検索サイトのトップや、SNSにもこのニュースが溢れかえっていた。しかも、あの陰陽師の若い男が撮影した動画が拡散され、ボクと父の顔が堂々と出ている。この動画だけ見たら、間違いなくボクらは動物虐殺の犯人だ。巧妙に編集と加工がされている。
「ヤツら、許せん」
父は怒りの感情をあらわにした。
「警察が動くかもしれませんね」
真央さんは冷静だ。どっちにしてもボクらは追い詰められてしまった。
「とにかく、ヤツらを捕まえるために急ごう」
鈴鹿山脈の向こう側の景色も自然豊かで滋賀県とそう大きく変わらない。間もなくいなべ市役所に着いた。最近オープンしたばかり庁舎らしく、建物の外観も内観も美しい。
庁舎には、パンとかソーセージとか人気の店舗が並ぶ商業施設「にぎわいの森」があり、多くの人が訪れている。
「私はここで待ってますね。親子二人で行ってきてください」
「え? 真央さん一緒に行かへんの?」
「世古くんはオレたちを裏切って、『にぎわいの森』で一人で買い物がしたいだけだ」
こんな状況なのに? 異常なほどにショッピングが好きだから、デートの度に困るのだ。
「俊介くんのお土産もちゃんと買っておくからね」
「ワシのは?」
「お金をいただけたら、買いますよ。館長は婚約者じゃないので」
余計なことを言わないでほしい。母が聞いたら、間違いなく怒る。
「婚約者? え! じゃあ、俊介とはもう婚約してるってこと?」
そう突っ込みたくなる父の気持ちは分かる。
「さあ」
その返事はないだろう。
「あ、そういえば世古くんは今日指輪をしてる! それってエンゲー……」
「知りませーん。では行ってきまーす」
今日まで親に隠していたものが、今、全部バレた。もう、いい。
ボクと父は市役所のピカピカの通路を進んで、教育委員会の生涯学習課へと辿り着く。
気のせいか、すれ違う人がボクらをチラ見しているように感じる。あのネットの動画を見たとしても、すぐにボクたちだと判別はできないように思うのだが。気のせいか?
「すいません。ちょっと歴史に興味があってここに来たんですけど」
父が職員に声をかけると、体格のいい男性の職員が近づいてくる。
「何か歴史的な場所をお探しですか?」
親切で優しそうな職員だ。名札には「伊藤」と書いてある。
「いなべ市は確か忌部(いんべ)がルーツで員弁という漢字をあてて、いなべと読むようになったと聞いてますが、合っていますよね?」
男性は、先ほどまで優しそうだったのに、急に軽く嘲笑するかのような表情を浮かべる。
「そんな根拠はありません」
「え? ない?」
父は動揺する。
「はい、いなべ市では日本書紀に書かれていることを根拠に、摂津の船大工集団、猪名部族がここに移り住んだのがルーツと公的に謳っています」
「おかしい! いや、確かに藤原家の策略でここに猪名部族は後からやって来たが、その前に忌部の賀茂氏はいましたよ。その証拠に北勢町には『麻生田(おうだ)』という大麻にまつわる地名もあるし、神麻績連(かむのおみのむらじ)という忌部の祖となる人物の古墳もあります」
「いやいや、根拠のない伝説は各地にたくさんありますから。信憑性は薄いです」
「では市役所では、忌部の天神系賀茂氏のルーツがここだということも認めないですか? 昔ここで麻を育て、大麻を使ったシャーマニズムの祭祠をしていたことも、なかったことにするんですか?」
「そりゃそうです。証拠がありません。天神系とは、賀茂氏の中でも裏陰陽師の一族を言っていると思いますが、そのルーツは常識的に、京都の上賀茂神社ですよ。こんな田舎であるはずがないです」
「違います! 忌部の中でも、そのエリートと言える裏陰陽師の賀茂氏は、ここがルーツてす。その祖である鴨別雷神(かもわけいかづちのかみ)はここで生まれました。いなべ市のルーツは忌部です」
「すいません、猪名部族は日本書紀に載っていますから証拠といいますか、根拠として強いのですよね。違うというのでしたら、反証してほしいのです」
この職員は頑なだ。父はもう一度、職員の名札を確認した。
「あなたの名字は、伊藤さん、ですね?」
「え、あ、はい」
「伊勢の藤原、だから伊藤」
「それがどうしました?」
「このいなべ市には、確か藤という漢字の入った名字が多いですね。伊藤、藤本、藤田、佐藤、斎藤とか。市内にある四つの町の一つは藤原町だし、地元の人たちにとってスピリチュアルな存在である山も、わざわざ藤原岳という名までついている」
「そんなの偶然です。藤原から派生した姓を持つ私たちが陰謀を働いているのではないですよ」
「私たちの名字は、秦です」
「……そうですか」
「歴史に詳しそうなあなたなら、分かっていただけますよね。賀茂氏と同じ忌部ルーツの秦を名のる一族として、教えてほしいのです。賀茂氏にまつわる神社はいなべ市にないんですか?」
「あるにはあります。ただ、市役所の職員として言うべきことではないかと思うのですが、……もう、詮索するのは止めたらどうですか?」
「え?」
急に伊藤さんは重い表情になった。どういうことだ?
「伊藤さん、今回の陰謀について何か知っていますね? 私たちは同じ忌部の賀茂氏系一派に殺されそうになりました」
「……」
伊藤さんは、目を閉じて苦悩する。
「何もしなければ、いいのです。何もしなければ、命を狙われることもありません」
「ボクらは何もしてないよ!」
ボクが食い下がると、「黙れ」と父は制した。
「いいえ、何かをしています。秦さんは探ろうとしてきましたね、秘密結社のヤタガラスを」
ヤタガラス? さっき見たニセモノのカラスと同じ名前の秘密結社があるのか? 今朝、父が言っていた、魔物の話か?
「君は、ヤタガラスを知っているのに放置するのか? 市役所の職員だろ?」
「市役所の職員だからこそ、もう、職掌を超えています」
「おい、伊藤!」
奥の上司に伊藤さんが呼ばれている。
「まずい。とにかく余計なことはしないことです」
伊藤さんが焦っている。
「こっち来い、伊藤! 今すぐだ」
気難しそうな上司が怒鳴り付ける。
「はい」
伊藤さんはボクらに耳打ちしてきた。
「いなべ市には賀茂別雷神(かもわけいかづちのかみ)が祀られている鴨神社があります。そこで探ってください。ボクにできるのはここまでです」
「おたくら、何者だ! 警察を呼ぶぞ」
上司が睨みながらボクらに近づいてくる。
この男が「警察」と物騒なことを言うものだから、周りの人が一斉にボクらを見る。
「失礼します」
慌ててボクと父は、逃げ出した。幸、誰も追ってこない。
市役所を出て駐車場に行くと、車で真央さんはホットドックにかぶりついていた。それ、ボクも食べたかったのだ。
「それ、有名なフチテイさんのホットドックやない?」
「あふぁり」
車に乗り込むと、真央さんは頬張りながら話す。ロレツが回っていないが、恐らく「当たり」と言ったのだろう。
「また世古くんは肉を食べているのか。相変わらず肉食系やな。まあ、俊介も食べられたもんな」
もはや、父の言うことはセクハラ以外の何物でもない。
「ボクの分は?」
「なひ」
ない、ってことか? やっぱりか。お土産を買うと事前に言っても買ってきたことがない。父は隣で大爆笑している。
真央さんはすぐに食べ終わって、今度はにぎわいの森のカフェで有名なタピオカのドリンクを飲んでいる。
「ねえ、真央さん。これ、どうしたの?」
ふと、ダッシュボードに小さな弓矢が置いてあるのに気付いた。雨が降っていないのに少し濡れている。弓の尖端は黒っぽい塗料が塗られていて、お土産物として買ったのではないことは分かった。
「あ、それ。拾ったの」
相変わらず、意味が分からない。
「どこで?」
「すぐそこの川で」
「川?」
「にぎわいの森をなめるように川があそこにあって、何か私が呼ばれてるような気になって川岸に行ったら、ね」
「落とし物は盗ったらあかんやん」
「でも流れて来たから、いいやん」
「真央さん、後で警察に行こな」
「はいはい、後でね」
大丈夫だろうか。しかも、そんな矢を拾ってどうするつもりなのか。
「で、館長。どっちですか、行くのは?」
真央さんが急に真面目な顔になった。
「どっち? まだどこに行くか言ってないのに分かるんか?」
「だって、話の流れだと行くのは、いなべ市大安町の鴨神社か、私の出身地、員弁郡東員町の猪名部神社のどっちかです」
え? 何で二択にできるレベルで分かるのだろう?
「よく推測できたな! そやけど猪名部神社はないわ。鴨神社へ行こう」
父は吐き捨てるように言う。
「え、でもいなべ市のルーツは猪名部族だし、……」
さっきの市役所職員のようなことを真央さんまで言う。
「違うんや。それは藤原一派の陰謀や。飛鳥時代、中臣と忌部は、朝廷の祭祇を取り仕切る二大勢力やった。しかし、中臣鎌足が大化の改新で勢力を伸ばし、藤原を名のるようになってから忌部を排除するようになった」
「どうして?」
「それは、分からへんけど、恐らく忌部の背後に藤原からしたら異様に思える勢力がついていたからや」
「異様?」
「うん、そもそも、忌部自体もその勢力やったんかもしれん」
「それは、何?」
「ユダヤ人や」
「まさか?」
「ホンマや。特に忌部の賀茂氏の祖、鴨建津身命(かもたけつのみこと)はヤタガラスの化身として神武天皇を導いたっていう伝説もある。ユダヤ人は当時大和朝廷にはない高い文化や文明があって、藤原は怖かったんやと思う」
「ほな、賀茂氏の祖がヤタガラスってこと?」
思わずボクも興奮してしまった。
「そうなるな。その神というべきヤタガラスを、オレたちが殺したようにでっち上げて、全国の賀茂氏を総動員してるんや」
「誰かここに向かって来ていますよ!」
真央さんがバックミラーを見ながら、慌てている。
「ヤツら、許せん」
父は怒りの感情をあらわにした。
「警察が動くかもしれませんね」
真央さんは冷静だ。どっちにしてもボクらは追い詰められてしまった。
「とにかく、ヤツらを捕まえるために急ごう」
鈴鹿山脈の向こう側の景色も自然豊かで滋賀県とそう大きく変わらない。間もなくいなべ市役所に着いた。最近オープンしたばかり庁舎らしく、建物の外観も内観も美しい。
庁舎には、パンとかソーセージとか人気の店舗が並ぶ商業施設「にぎわいの森」があり、多くの人が訪れている。
「私はここで待ってますね。親子二人で行ってきてください」
「え? 真央さん一緒に行かへんの?」
「世古くんはオレたちを裏切って、『にぎわいの森』で一人で買い物がしたいだけだ」
こんな状況なのに? 異常なほどにショッピングが好きだから、デートの度に困るのだ。
「俊介くんのお土産もちゃんと買っておくからね」
「ワシのは?」
「お金をいただけたら、買いますよ。館長は婚約者じゃないので」
余計なことを言わないでほしい。母が聞いたら、間違いなく怒る。
「婚約者? え! じゃあ、俊介とはもう婚約してるってこと?」
そう突っ込みたくなる父の気持ちは分かる。
「さあ」
その返事はないだろう。
「あ、そういえば世古くんは今日指輪をしてる! それってエンゲー……」
「知りませーん。では行ってきまーす」
今日まで親に隠していたものが、今、全部バレた。もう、いい。
ボクと父は市役所のピカピカの通路を進んで、教育委員会の生涯学習課へと辿り着く。
気のせいか、すれ違う人がボクらをチラ見しているように感じる。あのネットの動画を見たとしても、すぐにボクたちだと判別はできないように思うのだが。気のせいか?
「すいません。ちょっと歴史に興味があってここに来たんですけど」
父が職員に声をかけると、体格のいい男性の職員が近づいてくる。
「何か歴史的な場所をお探しですか?」
親切で優しそうな職員だ。名札には「伊藤」と書いてある。
「いなべ市は確か忌部(いんべ)がルーツで員弁という漢字をあてて、いなべと読むようになったと聞いてますが、合っていますよね?」
男性は、先ほどまで優しそうだったのに、急に軽く嘲笑するかのような表情を浮かべる。
「そんな根拠はありません」
「え? ない?」
父は動揺する。
「はい、いなべ市では日本書紀に書かれていることを根拠に、摂津の船大工集団、猪名部族がここに移り住んだのがルーツと公的に謳っています」
「おかしい! いや、確かに藤原家の策略でここに猪名部族は後からやって来たが、その前に忌部の賀茂氏はいましたよ。その証拠に北勢町には『麻生田(おうだ)』という大麻にまつわる地名もあるし、神麻績連(かむのおみのむらじ)という忌部の祖となる人物の古墳もあります」
「いやいや、根拠のない伝説は各地にたくさんありますから。信憑性は薄いです」
「では市役所では、忌部の天神系賀茂氏のルーツがここだということも認めないですか? 昔ここで麻を育て、大麻を使ったシャーマニズムの祭祠をしていたことも、なかったことにするんですか?」
「そりゃそうです。証拠がありません。天神系とは、賀茂氏の中でも裏陰陽師の一族を言っていると思いますが、そのルーツは常識的に、京都の上賀茂神社ですよ。こんな田舎であるはずがないです」
「違います! 忌部の中でも、そのエリートと言える裏陰陽師の賀茂氏は、ここがルーツてす。その祖である鴨別雷神(かもわけいかづちのかみ)はここで生まれました。いなべ市のルーツは忌部です」
「すいません、猪名部族は日本書紀に載っていますから証拠といいますか、根拠として強いのですよね。違うというのでしたら、反証してほしいのです」
この職員は頑なだ。父はもう一度、職員の名札を確認した。
「あなたの名字は、伊藤さん、ですね?」
「え、あ、はい」
「伊勢の藤原、だから伊藤」
「それがどうしました?」
「このいなべ市には、確か藤という漢字の入った名字が多いですね。伊藤、藤本、藤田、佐藤、斎藤とか。市内にある四つの町の一つは藤原町だし、地元の人たちにとってスピリチュアルな存在である山も、わざわざ藤原岳という名までついている」
「そんなの偶然です。藤原から派生した姓を持つ私たちが陰謀を働いているのではないですよ」
「私たちの名字は、秦です」
「……そうですか」
「歴史に詳しそうなあなたなら、分かっていただけますよね。賀茂氏と同じ忌部ルーツの秦を名のる一族として、教えてほしいのです。賀茂氏にまつわる神社はいなべ市にないんですか?」
「あるにはあります。ただ、市役所の職員として言うべきことではないかと思うのですが、……もう、詮索するのは止めたらどうですか?」
「え?」
急に伊藤さんは重い表情になった。どういうことだ?
「伊藤さん、今回の陰謀について何か知っていますね? 私たちは同じ忌部の賀茂氏系一派に殺されそうになりました」
「……」
伊藤さんは、目を閉じて苦悩する。
「何もしなければ、いいのです。何もしなければ、命を狙われることもありません」
「ボクらは何もしてないよ!」
ボクが食い下がると、「黙れ」と父は制した。
「いいえ、何かをしています。秦さんは探ろうとしてきましたね、秘密結社のヤタガラスを」
ヤタガラス? さっき見たニセモノのカラスと同じ名前の秘密結社があるのか? 今朝、父が言っていた、魔物の話か?
「君は、ヤタガラスを知っているのに放置するのか? 市役所の職員だろ?」
「市役所の職員だからこそ、もう、職掌を超えています」
「おい、伊藤!」
奥の上司に伊藤さんが呼ばれている。
「まずい。とにかく余計なことはしないことです」
伊藤さんが焦っている。
「こっち来い、伊藤! 今すぐだ」
気難しそうな上司が怒鳴り付ける。
「はい」
伊藤さんはボクらに耳打ちしてきた。
「いなべ市には賀茂別雷神(かもわけいかづちのかみ)が祀られている鴨神社があります。そこで探ってください。ボクにできるのはここまでです」
「おたくら、何者だ! 警察を呼ぶぞ」
上司が睨みながらボクらに近づいてくる。
この男が「警察」と物騒なことを言うものだから、周りの人が一斉にボクらを見る。
「失礼します」
慌ててボクと父は、逃げ出した。幸、誰も追ってこない。
市役所を出て駐車場に行くと、車で真央さんはホットドックにかぶりついていた。それ、ボクも食べたかったのだ。
「それ、有名なフチテイさんのホットドックやない?」
「あふぁり」
車に乗り込むと、真央さんは頬張りながら話す。ロレツが回っていないが、恐らく「当たり」と言ったのだろう。
「また世古くんは肉を食べているのか。相変わらず肉食系やな。まあ、俊介も食べられたもんな」
もはや、父の言うことはセクハラ以外の何物でもない。
「ボクの分は?」
「なひ」
ない、ってことか? やっぱりか。お土産を買うと事前に言っても買ってきたことがない。父は隣で大爆笑している。
真央さんはすぐに食べ終わって、今度はにぎわいの森のカフェで有名なタピオカのドリンクを飲んでいる。
「ねえ、真央さん。これ、どうしたの?」
ふと、ダッシュボードに小さな弓矢が置いてあるのに気付いた。雨が降っていないのに少し濡れている。弓の尖端は黒っぽい塗料が塗られていて、お土産物として買ったのではないことは分かった。
「あ、それ。拾ったの」
相変わらず、意味が分からない。
「どこで?」
「すぐそこの川で」
「川?」
「にぎわいの森をなめるように川があそこにあって、何か私が呼ばれてるような気になって川岸に行ったら、ね」
「落とし物は盗ったらあかんやん」
「でも流れて来たから、いいやん」
「真央さん、後で警察に行こな」
「はいはい、後でね」
大丈夫だろうか。しかも、そんな矢を拾ってどうするつもりなのか。
「で、館長。どっちですか、行くのは?」
真央さんが急に真面目な顔になった。
「どっち? まだどこに行くか言ってないのに分かるんか?」
「だって、話の流れだと行くのは、いなべ市大安町の鴨神社か、私の出身地、員弁郡東員町の猪名部神社のどっちかです」
え? 何で二択にできるレベルで分かるのだろう?
「よく推測できたな! そやけど猪名部神社はないわ。鴨神社へ行こう」
父は吐き捨てるように言う。
「え、でもいなべ市のルーツは猪名部族だし、……」
さっきの市役所職員のようなことを真央さんまで言う。
「違うんや。それは藤原一派の陰謀や。飛鳥時代、中臣と忌部は、朝廷の祭祇を取り仕切る二大勢力やった。しかし、中臣鎌足が大化の改新で勢力を伸ばし、藤原を名のるようになってから忌部を排除するようになった」
「どうして?」
「それは、分からへんけど、恐らく忌部の背後に藤原からしたら異様に思える勢力がついていたからや」
「異様?」
「うん、そもそも、忌部自体もその勢力やったんかもしれん」
「それは、何?」
「ユダヤ人や」
「まさか?」
「ホンマや。特に忌部の賀茂氏の祖、鴨建津身命(かもたけつのみこと)はヤタガラスの化身として神武天皇を導いたっていう伝説もある。ユダヤ人は当時大和朝廷にはない高い文化や文明があって、藤原は怖かったんやと思う」
「ほな、賀茂氏の祖がヤタガラスってこと?」
思わずボクも興奮してしまった。
「そうなるな。その神というべきヤタガラスを、オレたちが殺したようにでっち上げて、全国の賀茂氏を総動員してるんや」
「誰かここに向かって来ていますよ!」
真央さんがバックミラーを見ながら、慌てている。