「そう……なんですかね?」

 わたしには恋愛経験が乏しいから、陸さんの本心は何となくボンヤリとしか読み取れない。だから、マイカ先生からその可能性を指摘されても「確実にそうなんだ」とは受け止められない自分がいる。

「まぁ、実際にそうなのかどうかはあたしにもハッキリとは分かんないけど。ハルヒちゃんの話を聞く限りでは、高良さんがあなたのことを嫌ってはいないってことだけは確実に言えるね」

「はぁ」

 何だか話が思わぬ方向に進んでいることに、わたしは戸惑う。

(……あれ? おかしいなー、わたしって確かマイカ先生の悩みを聞くためにこの部屋に来たはずなのに。気がついたらわたしの恋バナになってる……)

 でも、彼女の悩みの原因が何だったのかは分かったし。一応、この訪問の目的は果たしているわけだ。

「あーあ、何で小説には著作権なんて面倒くさいものがあるんだろう。テディベア(この子たち)みたいに著作権なんかなければ誰でも自由な内容が書けるのになぁ」

 このボヤきこそが、マイカ先生の悩みをギュッと一言に凝縮したものだろう。そしてそれは、わたしを始めとする同業者たち全員の共通の悩みでもある。

「――そういえば、ハルヒちゃんも今新作書いてるんだよね? どんなお話書いてるの? パクったりしないから教えて?」

「ええ、いいですよ。ホントにパクらないで下さいね? もしパクったら、マイカ先生でも関係なく訴えますからね?」

 わたしはそう前置きしてから、このホテルを舞台にして、現実とリンクした作品を執筆していることを話した。第二章のメインゲストが彼女自身だということは伏せたけれど。

「……へぇ、それは面白そうだね。ホテルが実家のハルヒちゃんにしか書けないお話だもん」

「えへへ、そうですか? 実はこのお話の構想が思いついた時、『わたしって天才かも!』って自分でも思っちゃいましたから」

 ただ単にうぬぼれているだけかもしれない。でも、徳永さんからGOサインを出してもらえた時、「書いていいんだ」と自信が持てた。

「よぉーっし、あたしもハルヒちゃんに負けてられないなぁ。頑張って新作書くよー。お互いに頑張ろうね! というわけで、食事は毎食ルームサービスにしてもらうことってできる?」

「はい、大丈夫ですよ。料金は宿泊料金に含まれますから、別料金は必要ないです。じゃあ、今日の夕食からということで、厨房スタッフにはわたしから伝えておきますね。注文は内線電話でお願いします」
 
 彼女の「オッケー」という返事を聞いて、わたしは二一〇号室を後にした。マイカ先生、いい作品が書けますように……。