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今日チェックインのお客様は本当にマイカ先生一人だけだったので、飛び込みの宿泊客がいなければしばらくヒマになる。コンシェルジュの陸さんは、相変わらず宿泊客からの要望や苦情の対応に追われて大変そうだけれど。
わたしはいつでも陸さんのサポートをしなければならないというわけでもないので、こういうポコッと空いた時間にはわりと自由に動き回れる。
「――陸さん、わたしちょっとマイカ先生のお部屋に行ってくるね」
「分かった。ゆっくり作家トークでもしといで。ここは大森さんもいるし、何とでもなるから」
「ありがと。じゃあ行ってきます」
陸さんの許可を得て、わたしはマイカ先生がお泊まりになっておる二一〇号室のドアチャイムを押した。
「――はい」
「マイカ先生、わたし、ハルヒです。さっそく遊びに来ました」
「どうぞー。あ、ちょっと待ってね。ロック開けるから」
中からドアを開けてもらい、わたしは入室した。
この部屋はシングルルームで、東様の問題により撤去したこの部屋のテディベアたちはルームメイキングの時に戻ってきた。
ライティングデスクの上にはノートパソコンが一台置かれていて、その周りには資料となる本やパンフレットが何十冊も積み上げられている。女性のロングステイは荷物が多くなるというけれど、彼女の場合はたくさんの資料も持ち込んでいたので余計に荷物が多かったのだ。
「失礼しまーす。どうですか、このお部屋は? 気に入って頂けました?」
「うん。ベッドの寝心地もよさそうだし、室温もちょうどいいし、すごく快適だよー。この可愛いクマさんたちにも癒されるしね」
彼女は抱きかかえたテディベアの頭を「いい子いい子」と撫でながら、楽しそうにそう言ってくれた。
「よかった。実は昨日、この部屋でお客様とトラブルになったんですよ。男性のお客様だったんですけど、このテディベアがお気に召さなかったみたいで」
「そうなの? それは災難だったねー。あなたたち、こんなに可愛いのにねぇ。この良さを分かってくれないなんてヒドいわよねぇ」
テディベアに話しかける彼女はものすごく可愛い。女性なら誰しも、子供の頃にぬいぐるみやお人形で遊んだ記憶があるもの。ただ、男性だとそうもいかないのだけれど……。
「――ところでハルヒちゃん。あなたってテディベアに詳しい?」
「……ええ、まぁ。コレクターだった父ほどじゃないですけど、多少の知識ならありますよ」
「じゃあ、一つ質問ね。テディベアに著作権ってある?」
マイカ先生からの思いがけない質問に、わたしは目を丸くした。答えは持ち合わせているけれど、彼女の質問の意図が分からなかったのだ。